ここ数年で耳にする機会が急増した「プロゲーマー」という新しい職業。筆者・すいのこもそのひとりだ。給与面などで不安定な部分が多く、特に賞金付き大会の開催が難しい日本では、ゲームの腕前を磨くだけでなく、ネット配信やイベント出演などを通じてお金を稼いだり自身の価値向上に取り組んだりすることも重要な仕事と言える。
多くのプロゲーマーが自身のブランディングに頭を抱えている中、「プロゲーマー弁護士」という強烈なインパクトを持つ肩書きで活動している選手がいる。「こへう(KHU)」というプレイヤーネームで活動している、宮本康平さんだ。2009年に設立され、2020年10月にはレッドブルとのパートナー契約を締結するなど日本を代表するプロゲーミングチームである「デトネーター(DeToNator)」に所属し、任天堂から2017年に発売された格闘ゲーム『アームズ(ARMS)』部門で活動している。
それまでに格闘ゲームなどに打ち込んだ経験のなかった宮本さんだが、2017年に発売されたARMSで彼は才能を開花させた。1年足らずでプロゲーマーになるだけでなく、アメリカ・ラスベガスで開催された世界最大規模の格闘ゲーム大会「EVO 2018」で見事優勝した。その一方で彼は東京大学法学部に大学院まで在籍し、卒業後に司法試験を受験し見事合格、2020年12月から弁護士としてのキャリアをスタートさせている。
プロゲーマー弁護士という異色の肩書きを持つ宮本さん。元々弁護士を目指すために東京大学を目指したわけではないのだと語る。
「最初は官僚を目指していました。当時、官僚をモデルにしたテレビドラマが放送されていて、魂を燃やしながら働く官僚という仕事に憧れを抱いたのがきっかけです」
2012年に東京大学に入学した宮本さんだったが、自分のスキルで直接、人の役に立つという弁護士の仕事に魅力を感じ、官僚から弁護士へと進路を変更した。2016年に法学の学士号を取得した彼は、さらにもう一年法学部に在籍し政治学の学士号も取得。2017年に法科大学院へと進むのだが、入学して2ヶ月後に発売された『アームズ』が彼の人生を大きく変えることとなった。
「最初は友達と一緒に買って遊ぶ程度でしたが、インターネットでのオンライン対戦が楽しくてもっと強くなりたいと思うようになりました。強い人の動画を見て研究したり、自分でも攻略動画を作ったりしました。2017年の11月に開催された公式大会『ARMS JAPAN GRAND PRIX 2017』への出場がきっかけで、大会で勝つことの楽しさを知り、本気で一番になりたいと思うようになりました」