中国の巨大IT企業「アリババ」の創業者で、世界有数の大富豪として知られるジャック・マー(馬雲)氏(56)が昨年11月以降、消息を絶っている。中国IT界の寵児はなぜ忽然と姿を消したのか。金融規制を巡り対立する中国共産党の謀略説など、さまざまな憶測が流れるが、中国の社会情勢に詳しい専門家は「中国では富豪や起業経営者が“消される”ことは決して珍しくない」と話す。
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中国のシンクタンク「胡潤研究院」によると、昨年、中国国内で20億元(約321億円)以上の個人資産を有する富豪は過去最高の2397人に上った。そのトップに君臨するのがIT大手「アリババ」創業者のジャック・マー氏だ。その総資産額は4000億元(約6兆4000億円)とされる。
マー氏がアリババを創業したのは、今からわずか20年ほど前の1999年。中国のインターネット黎明期に電子商取引の将来性に着目し、ネット通販事業を主軸に一代で同社を世界的企業に成長させた。事業の拡大とともに国内外の企業を次々と傘下に収め、2014年には米ニューヨーク証券取引所への上場を果たした。
中国の社会情勢に詳しい評論家・石平氏が語る。
「マー氏は2019年にアリババグループの会長職を退き、昨年9月には取締役も退任していますが、“物言う実業家”として中国社会に強い影響力を持ち続けている。中国共産党に対しても率直な物言いをすることで知られており、当局が快く思っていなかったのは間違いありません」
そうしたなかで事件は起きた。昨年10月、上海で行なわれた外灘金融サミットの席上で、マー氏が「時代錯誤の規制が中国の技術革新を窒息死に追い込む」と、中国当局の金融規制を公然と批判したのだ。石平氏が続ける。
「この発言で、中国当局との対立がより深刻化したとみられています。その後の11月には、アリババグループ傘下で電子決済サービス『アリペイ』の運営企業『アント・グループ』のIPO(新規上場)が、当局の圧力で延期に追い込まれました」
それだけではない。昨年12月には、当局がアリババグループによる過去のM&Aに関する手続きの不備を指摘。手続きに違反があったとして罰金刑を科した。同月には、独禁法違反の疑いでグループへの調査も開始されている。