日常生活を一変させた新型コロナウイルス。2度目の緊急事態宣言が発出され、ふたたび不自由な生活が強いられる中、前向きな気持を保つことは簡単ではない。『70歳のたしなみ』で後半生を黄金時代に変える心構えを説いた昭和女子大学理事長・総長の坂東眞理子さんと、『なんとめでたいご臨終』で最期まで朗らかに生きて旅立った人たちのエピソードを明かした在宅医療の第一人者・小笠原文雄さん。ベストセラー著者2人が、コロナ禍に考えておきたい生き方、死に方について語り合った。
ベストセラーとなった『70歳のたしなみ』で70才からの後半生を幸せに生きるための“たしなみ”を描いた坂東さん。彼女がコロナを機に考えるようになった「よりよい死の迎え方」をめぐり、2人の対話は深まってゆく。
坂東:お釈迦様は亡くなるとき、老衰で穏やかに生命が消えていかれましたよね。私自身も、ろうそくの炎が消えるようにすーっと亡くなるのが理想です。
小笠原:在宅ホスピス緩和ケアの目的は、朗らかに生きて、清らかに旅立つことです。病院で苦しんでいた人が、家に帰り、在宅ホスピス緩和ケアに切り替えたら、笑って長生きする人が3割くらいいるんです。余命5日と言われた人が8年生きるなど、ありえないことがいっぱい起きるんです。
坂東:それが本当に不思議です。
小笠原:ぼくが病院に勤務していた頃、患者が苦しんで死ぬと、「ご愁傷さまです」と言うように先輩から教わりました。在宅では「家にいたい」という願いが叶い、希望の中で生き、満足して、納得して、死んでいく。「希望死・満足死・納得死」が叶う生き方ができると「なんとめでたいご臨終」だと家族も喜ばれます。
坂東:臨終のときはしんみりすると思い込んでいたので、みんなが笑ってピースして最期を迎えるなんてビックリしました。いままでの常識とかけ離れていますね。
小笠原:そうなんです。現場では、いのちの不思議さを目の当たりにします。大学や教科書で学んだ医学は正しいと思っていましたが、在宅の現場では、そうした常識を覆すことが起こるんです。ひとり暮らしの人は誰かいるときに亡くなるとか、死ぬときを選ぶいのちの不思議さに驚いてしまいます。
坂東:本当に人間の生命って、わからないことの方が多い。病院で亡くなった場合、周りの人は“ここまで苦しんだのだから、亡くなってホッとした”と言うでしょう。死ぬ前は本当に苦しいんだとみんな思い込んでいますよね。進行が遅く、痛みが少ないといわれる90才を過ぎてからのがんだって、部位によっては痛むと聞きます。