コロナ禍で旅行に出かけられないいま、「オンラインの鉄道旅行」が密かな人気だ。各地のローカル路線を巡るテレビの旅番組にも、地方への移動自粛が叫ばれるこんな時期だからこそ、特に旅情をかきたてられる。現代人にとって鉄道は、たんに移動や輸送の手段ではなく、自分を非日常の場所に運んでくれるもの。また、路線の成り立ちを探究することで、土地の歴史や文化を知ることができるという魅力もある。
「日本の路線や鉄道の発展を語るとき、その背景に『皇室』が関係していることが多い。たとえば、皇族方の遠方のご公務における移動手段として整備された路線もあります。皇室と鉄道の歴史は密接に関連しているのです」
そう語るのは歴史探訪家で、新著『妙な線路 大研究』(実業之日本社刊)が反響を呼んでいる竹内正浩さんだ。日本で初めて鉄道が開通したのは1872(明治5)年。新橋~横浜間が最初の区間だった。その開業式に先駆けて、明治天皇が仮営業中だった横浜から品川まで乗車したのが、現代に至る皇室と鉄道の歴史の始まりである。
「特に昭和天皇は、史上最も鉄道を利用した皇族のひとりといっても差し支えないでしょう。87年の生涯で、列車での移動距離はゆうに24万kmを超えたといわれます。大正時代以降、日本の鉄道網が徐々に整備されたことで、皇族方の遠方でのご公務の機会も飛躍的に増えました」(竹内さん・以下同)
昭和天皇の“電車好き”は年始の恒例行事である「歌会始」の様子からもうかがい知ることができる。
《国鉄の車に乗りておほちちの明治のみ世をおもひみにけり》
「これは昭和63年の歌会始で昭和天皇がお詠みになられた短歌です。お題は『車』だったため、多くの皇族方が自動車を詠んだなかで、その歌は印象的だったといいます」
体調を崩されていた昭和天皇にとって、その年が最後の歌会始となった。最後に詠まれたのが「鉄道」だったことは、列車で日本の津々浦々を巡られた昭和天皇らしいエピソードだろう。
※女性セブン2021年2月4日号