全国をくまなく走る日本の鉄道は、時刻の正確性で世界に知られているが、その歴史を紐解くと、背景に「皇室」が関係していることが多い。例えば、皇族方の遠方のご公務における移動手段として整備された路線もあるという。
皇族方が乗車されるときは、“宮内庁御用達”の特別なルールがある。歴史探訪家で、新著『妙な線路 大研究』(実業之日本社刊)が反響を呼んでいる竹内正浩さんはこう話す。
「天皇家の方々が乗られるのは『お召列車』と呼ばれる特別な列車です。運行時は先頭車に国旗が掲揚され、一般の列車とは並走させない、お召列車の上に一般の列車を立体交差させないなどの原則もあるそうです。また、1925(大正14)年にはJR山手線の原宿駅に、お召列車発着専用の『宮廷ホーム』も造られました」
しかしこの宮廷ホームは平成に入り、湘南新宿ラインなど新路線の登場でJRのダイヤが過密になったことや、お召列車運行による特別ダイヤによって国民に負担をかけることを懸念した上皇陛下のご意向などにより使用頻度が激減。2001年を最後に、以降は一度も使われなかった。
2019年9月28日、令和に入り初めてのお召列車が東京~勝田間に運行された。乗車されたのは、天皇皇后両陛下。茨城で行われた国民体育大会の開会式に出席されるためだった。
「一般に鉄道旅行というと、車内の喫食や車窓の眺めが楽しみですが、両陛下にとっては、お召列車での移動時間も沿道の人々と触れ合う貴重な時間とお考えのようです。ずっと窓に向かって立ち、沿道の人々を目に留め、手を振って応えていらっしゃった。
お召列車でのひとときも、国民にとっては皇室とのつながりを肌で感じることのできる貴重な機会だというお気持ちが強いようです。車内で休む時間はほとんどないのではないでしょうか」
※女性セブン2021年2月4日号