日本を代表するSF作家・小松左京の小説群は、たびたび「未来を予見していたよう」と評されてきた。小松左京氏、星新一氏とともに「日本SF御三家」と言われる作家・筒井康隆氏が、生前の小松氏との思い出を振り返り、その先見性について語った。
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──小松さんの『復活の日』は1964年に発表された小説ですが、昨年から続く新型コロナ禍を予言していたと話題になりました。
筒井:当時、発売されてすぐに読みました。私の弟の嫁さんが大阪大学薬学部出身なのですが、彼女が読んでウン、ウンと頷いていました。専門の人も感心するようなアイデアだったということでしょうね。
──1973年発表の『日本沈没』で描かれたプレートテクトニクス理論も、当時の最先端の理論だったそうですね。
筒井:最新というか、私は読んで初めて知って、そんなものがあるのかと驚きました。
──小松さんの作品は膨大な知識に基づいていますが、筒井さんは、小松さんの知識量を収納具の「長持」に例えて論じた「小松左京論」を執筆されています。
筒井:小松さんは、仕入れた知識を皆の前でよく喋っていました。開陳することで、長持に入れるように情報を整理し、知識を身体の中に染みこませていたのだと思います。
一度、ジャズピアニストの山下洋輔と3人で飲んでいたとき、彼の前で小松さんがジャズの歴史を開陳したこともあった。彼がジャズピアニストだと分かっていたはずなので、よくやるなぁ、と思いましたよ。
──そうした知識が、現代にも通じる慧眼の源泉になったのでしょうか。
筒井:小松さんは何かのウイルスや風邪が流行ったときに、その現実の様子を拡張解釈して、何が起こるかを考えて書いていました。我々は“外挿法=エクストラポレーション”と言いますが、風邪の流行をエクストラポレートして、医療崩壊はもちろん、人類が滅亡する寸前まで書いたわけです。コロナが嫌らしいのは、人類が滅亡するほどではないが、ウイルスも消滅しないまま、流行が続いているところですね。
──小松さんとの関係では、『日本沈没』の刊行直後に、筒井さんは『日本以外全部沈没』を発表されました。作品の最後に〈原典『日本沈没』のパロディ化を快諾下さった小松左京氏に厚く御礼申し上げます〉と書いていらっしゃいますね。
筒井:あれは小松さんや星新一さんと飲んでいたとき、星さんが「日本以外を沈没させたらどうだ」というアイデアを思い付いた。でも、星さんが書くテーマじゃないから私がもらって、その場で小松さんに書いていいかと聞いたんです。