ライフ

鈴木登紀子さん、珠玉のお小言「不機嫌な顔でお台所に立たないで」

ばぁばこと、鈴木登紀子さん

ばぁばこと、鈴木登紀子さん

 2020年12月28日に、96才で逝去した“ばぁば”こと日本料理研究家の鈴木登紀子さん。『女性セブン』で長きにわたってエッセイを連載してきたばぁばが残した“珠玉のお小言”を紹介します。

 * * *

「旬の食材は食べる特効薬です」

「日本料理は四季を追いかけ楽しむお料理です。そこには理由があり、春夏秋冬それぞれの恵みをおいしくいただく先人の知恵が詰まっています。

 芽吹きの春にはふきのとうや菜の花などえぐみや苦味のある野菜が寒さで萎えていた体を覚醒してくれますし、夏に水分たっぷりのきゅうりやトマトなどが体を冷やしてくれます。

 そして秋冬には里いもや大根等の滋養ある根菜がおいしくなりますね。お魚の種類も豊富で、その良質なたんぱく質は体を温め、胃腸を整えてくれます。その結果、病気から体を守る免疫機能も向上します。

『医食同源』と申します。栄養のある旬の食材をおいしく食べて、コロナに負けない体をおつくりくださいませ」

「お豆や大根をほたほたと煮る時間が好きです」

「ばぁばはお台所にいるときがいちばんホッとします。お料理は言わずもがなですが、お稽古や取材の献立を考えたり原稿を書くのもここ。腹が立ったときには、包丁を研いだり、お鍋を一心不乱に磨いて発散したり。端から見たらまさに鬼婆だわね(笑い)。

 また、暮れの忙しいときには、たっぷりの焼き干しのおだしに乱切りにした大根を入れ、お酒としょうゆを少し加えて火にかけます。ほたほたと煮える音を聞きながら、仕事をする時間がなんともいえず心地よいの。特にパパが亡くなってからは、温かな湯気が運んでくるおだしの香りに癒されました。私がお台所を“聖地”と呼ぶ所以です。

 それから、お正月の黒豆や金時豆を煮るのも大好き。黒豆は主にお仕事ですが、金時豆は趣味ね(笑い)。時間が仕上げてくれるお料理は、頭の中を整理したいときにぴったりなの。火加減や差し水のお世話をしているうちになんとなく答えが見つかったり、『おいしく煮えたからもういいわ!』って諦めがついたりね(笑い)」

「不機嫌な顔でお台所に立たないでほしいのです」

「お千代さん(母)は、女性を褒めるときによく『ようすのいいかたね』という表現を使いました。“ようすがいい”とは容姿のことではなく、行儀作法が身につき、気働きができる女性のこと。

 私は6人きょうだいの末っ子で、スポーツが得意なおてんば娘。母も呆れるほどでした。そこで母は、小学校に上がる前からお客さまへのお給仕をさせたのです。

『自分がよそ様に伺ったときに“よくもてなしてくださった”と思うように振る舞いなさい』。つまり、相手の立場に立って気を配るということ。それが“ようすのよい”立ち居振る舞いを作ります。鉄は熱いうちに打てと申しますが、それを実践した母はなんと賢かったことか。

 母はまた、愚痴をけっして吐かず、苦労を気づかせない人でした。ため息ひとつつく姿を見たことはありません。

 ようすのよい女性が作るお料理は、じつにようすのよいお味がします。お台所では、どうか笑顔を忘れないでください」

取材・文/神史子 撮影/近藤篤

※女性セブン2021年2月4日号

ラム肉も、手間をかけるから美味しく仕上がる

ラム肉も、手間をかけるから美味しく仕上がる

関連キーワード

関連記事

トピックス

田中真一さんと真美子さん(左/リコーブラックラムズ東京の公式サイトより、右/レッドウェーブ公式サイトより)
《真美子さんとの約束》大谷翔平の義兄がラグビーチームを退団していた! 過去に大怪我も現役続行にこだわる「妹との共通点」
NEWSポストセブン
異物混入が発覚した来来亭(HP/Xより)
《「来来亭」の“ウジムシ混入ラーメン”動画が物議》本部が「他の客のラーメンへの混入」に公式回答「(動画の)お客様以外からのお問い合わせはございません」
NEWSポストセブン
ブラジルを公式訪問されている秋篠宮家の次女・佳子さま(2025年6月4日、撮影/JMPA)
《追加生産決まる人気ぶり》佳子さまがブラジル訪問で神戸発ブランドのエレガントなワンピースをご着用 ブラジルとの“縁”を意識されたか
NEWSポストセブン
金スマ放送終了に伴いひとり農業生活も引退へ(常陸大宮市のX、TBS公式サイトより)
《金スマ『ひとり農業』ロケ地が耕作放棄地に…》名物ディレクター・ヘルムート氏が畑の所有者に「農地はお返しします」
NEWSポストセブン
異物混入が発覚した来来亭(HP/Xより)
《ラーメンを食べようとしたらウジ虫が…》「来来亭」の異物混入騒動、専門家は“ニクバエ”と推察「チャーシューなどの動物性食材に惹かれやすい」
NEWSポストセブン
「ONK座談会」2002年開催時(撮影/山崎力夫)
《追悼・長嶋茂雄さん》「ONK(王・長嶋・金田)座談会」を再録 長嶋一茂のヤクルト入りにカネやんが切り込む「なんで巨人は指名しなかったのよ。王、理由をいえ!」
週刊ポスト
タイ警察の取り調べを受ける日本人詐欺グループの男ら。2019年4月。この頃は日本への特殊詐欺海外拠点に関する報道は多かった(時事通信フォト)
海外の詐欺拠点で性的労働を強いられる日本人女性が多数存在か 詐欺グループの幹部逮捕で裏切りや報復などのトラブル続発し情報流出も
NEWSポストセブン
6月9日付けで「研音」所属となった俳優・宮野真守(41)。突然の発表はファンにとっても青天の霹靂だった(時事通信フォトより)
《電撃退団の舞台裏》「2029年までスケジュールが埋まっていた」声優・宮野真守が「研音」へ“スピード移籍”した背景と、研音俳優・福士蒼汰との“ただならぬ関係”
NEWSポストセブン
小室夫妻に立ちはだかる壁(時事通信フォト)
《眞子さん第一子出産》年収4000万円の小室圭さんも“カツカツ”に? NYで待ち受ける“高額子育てコスト”「保育施設の年間平均料金は約680万円」
週刊ポスト
6月9日、ご成婚記念日を迎えた天皇陛下と雅子さま(JMPA)
【6月9日はご成婚記念日】天皇陛下と雅子さま「32年の変わらぬ愛」公務でもプライベートでも“隣同士”、おふたりの軌跡を振り返る
女性セブン
(インスタグラムより)
「6時間で583人の男性と関係を持つ」企画…直後に入院した海外の20代女性インフルエンサー、莫大な収入と引き換えに不調を抱えながらも新たなチャレンジに意欲
NEWSポストセブン
清原和博氏は長嶋さんの逝去の翌日、都内のビル街にいた
《長嶋茂雄さん逝去》短パン・サンダル姿、ふくらはぎには…清原和博が翌日に見せた「寂しさを湛えた表情」 “肉体改造”などの批判を庇ったミスターからの「激励の言葉」
NEWSポストセブン