2横綱が全休し、3大関に序盤から土。とくに綱取り場所だった貴景勝は2勝7敗で10日目から休場と、大相撲初場所は荒れに荒れた。中日までに三役以上の力士を全員破り、勝ちっぱなしで優勝争いのトップを走って13勝2敗の成績で初優勝したのは追手風部屋の平幕・大栄翔だった。突き押しのスタイルを貫き、埼玉出身力士として初めて賜盃を手にしたが、大番狂わせの背景に、「コロナによる角界の異常事態がある」と説明するのは若手親方のひとりだ。
「力士は基本的に外出禁止でコンビニに行くのも師匠の許可がいる。もちろん場所前の『出稽古』も禁止された。そうなると部屋ごとの関取の数の違いが、そのまま稽古の質の差になる。大栄翔の追手風部屋には、幕内力士が3人、十両が3人もいる。しかも四つ相撲の遠藤、小兵の翔猿に加え、十両力士は巨漢揃いと、部屋のなかで様々なタイプと稽古ができる。十両の剣翔も中日まで全勝で早々に勝ち越しを決め、12勝3敗の成績で十両優勝。追手風部屋の力士が幕内&十両のダブル優勝を果たしました」
現在、44の相撲部屋があるが、関取が1人もいない部屋は15、関取が1人だけの部屋も11ある。
「そうした部屋の力士は出稽古で力を磨くが、コロナでそれができない。初日から連敗スタートになった小結・高安の田子ノ浦部屋では、高安以外は三段目より下しかおらず、部屋付きの荒磯親方(元横綱・稀勢の里)がまわしをつけて稽古相手をしている」(同前)
平幕の逸ノ城が所属する湊部屋も、他には三段目3人、序二段5人がいるだけで、しかも軽量級ばかり。「200kg超の逸ノ城は、コロナ禍が続けばどんどん力が衰えてしまう」(ベテラン記者)と懸念されている。
部屋の環境にどれだけ不満があっても、入門後に部屋の移籍はできないのが“角界の掟”だ。今後、コロナで「部屋格差」がどんどん広がっていく心配がある。
「貴景勝にしても、同じ部屋の関脇・隆の勝は、四つ相撲も取れるとはいえ基本的には本人と同じ押し相撲タイプで稽古にバリエーションが出にくい。今回の休場は3日目のケガによるものとはいえ、場所前の調整にはかなり苦労したはずだ」(前出の若手親方)
春場所が開催されるとして、感染拡大が収まって出稽古が再開されているかで、各力士の成績は大きく変わりそうだ。
※週刊ポスト2021年2月5日号