仕事でストレスがかかると疲労が増すようなイメージがある。しかし、実は逆でストレスは生体を頑張らせるシグナルなのだ。ストレスがかかるとストレスホルモンであるコルチゾールとアドレナリンという2つのホルモンが出る。
コルチゾールは様々な臓器の代謝促進の他に、炎症や免疫低下抑制など体を守る働きをする。アドレナリンは闘争ホルモンといわれ、交感神経を刺激して血圧を上げ、筋肉の瞬発力をサポートする。このようにストレス反応は生体を応援する作用をし、疲労とのバランスをとっている。
東京慈恵会医科大学ウイルス学講座の近藤一博教授の話。
「ただし、過剰なストレスがかかるとコルチゾールの産生が減ってしまい、疲労が前面に出てきます。要はストレスと疲労のバランスが崩れるわけで、こうした疲れも、うつ病を引き起こす一因となることがわかってきました」
疲労が蓄積すると潜伏感染していたHHV(ヒトヘルペスウイルス)-6が増殖、唾液に出てきて鼻から脳に入り、匂いを感じる嗅球に感染する。感染するとSITH-1遺伝子とSITH-1たんぱくという物質を産生する。マウス実験では嗅球にSITH-1が付くと嗅球細胞がカルシウムを取り込み、細胞死を起こす。細胞死を起こすと脳内のストレスが亢進。脳内のストレス亢進は不安を増強させる働きがあり、結果的にマウスはうつ状態になった。
近藤教授はSITH-1 に、うつ病を誘導する性質があるのではと考え、ヒトに対しても計測を試みた。SITH-1は、たんぱくなので抗体ができる。そこでヒトの血中のSITH-1抗体を測定したところ、健常人に比べ、うつ病患者は抗体値が極めて高いとの結果になった。計算ではSITH-1が確認された場合、12. 2倍もうつ病になりやすく、さらにSITH-1の影響で、うつ病になった患者は79. 8%もいることが判明した。
「SITH-1は、うつ病を発症する前の、うつ状態の人にも発現していました。となれば、SITH1-1を計測することにより、うつ状態かどうかや、うつ病発症の可能性についても追うことができます。現在、少量の血液を採取しただけで測定が可能な、より簡便に正確に検査できるキットの開発に向けての研究に取り組んでいます」(近藤教授)