たびたび「未来を予見していたよう」と評されてきた日本を代表するSF作家・小松左京氏。その代表作のひとつである『復活の日』の先見性について、小松氏と親交があった医師の下村健寿氏が解説する。
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『復活の日』が凄いのは、現在の生物学から見ても科学的描写が古びていないことです。通常のウイルスは、遺伝情報を持つ「核酸」の周りをたんぱく質の殻が覆っているのですが、『復活の日』ではウイルスに殻がない「むきだしの核酸」というアイデアを採用しています。核酸を覆うたんぱく質の殻がないため、科学者が正体を特定できずに感染が拡大する、という描写になっているのです。
何より驚くのは、『復活の日』が刊行された1964年当時、この「むきだしの核酸」の存在を考えていた人は、専門家でもほとんどいませんでした。小松さんは専門的な学術論文を原文で読み込み、一線の科学者が思いつかなかった「むきだしの核酸」を着想したのです。その後、1971年には植物界で実際に「むきだしの核酸」が発見されました。パンデミックで人々がパニックに陥る様子も含め、鋭い洞察で描いています。
終幕近くの描写も非常に示唆的です。『復活の日』では、パンデミックを免れた南極の越冬隊が、国境や人種、宗教の壁を越えて協力してウイルスに対峙します。
ウイルスに国境はありません。新型コロナ禍でも各国が利害関係を乗り越え一致団結して、初めてウイルスに勝利できるのではないでしょうか。
『復活の日』では、不眠不休で患者の治療にあたる医師が「どんなことにも終わりはある」が、「どんな終わり方をするかが問題だ」と口にします。この言葉通り、現実の世界でも各国の科学者の知恵を結集し、ワクチン開発などの対策を講じて、人類が復活の日を迎えることを願っています。
【プロフィール】
下村健寿(しもむら・けんじゅ)/1972年、群馬県生まれ。福島県立医科大学病態制御薬理医学講座主任教授。糖尿病や肥満、生活習慣病の研究、臨床に携わる。生前の小松氏と親交を持ち、「小松左京マガジン」にも寄稿した。
写真/小松氏のアルバムよりお借りしました
※週刊ポスト2021年2月5日号