インターネットはとても便利だ。どこへも移動せずに様々な物事を見聞きできるし、知ることが出来る。だが、それが世界のすべてではない。そんな当たり前のことに気づけなくなり、レコメンドされるネット情報だけがこの世のすべてだと信じ、新型コロナウイルスについても荒唐無稽な説を世の中にも主張して、混乱を引き起こす人たちが出現している。ライターの森鷹久氏が、視野狭窄になった彼らが巻き起こす不協和音の数々について、レポートする。
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マスコミはコロナを煽りすぎ、専門家の言うことも信用できない、政府は無能──。
テレビや新聞から流れる情報の多くが新型コロナウイルス関連に覆われる状態が続くにつれ、SNSを中心に、報じられている内容を否定する人たちが出現している。彼らは、今の社会を覆う悪い雰囲気はマスコミや専門家、政府が作り出したのだと責任転嫁するような言葉をネットで発信し続けている。
報じられていることや医者や役所が言うことは何も信用できないし、信頼できないという書き込みは、当初は極端な考え方の少数によるものと見られていた。ところが最近では、感染拡大と再びの緊急事態宣言発令の中で、無視できない規模に増殖している。それが単なる「落書き」として誰も本気にしないなら問題なかったのだが、落書きはやがて言説になり、さらに「思考」なのだと一部の人々が強く認識し、その人々たちによって『情報』として拡散された結果、医療の最前線では、笑えない「綻び」が出現している。
「頭痛が止まないという中年の男性から電話連絡を受けたのは、昨年の夏頃でした。当然『コロナではないか』と心配されていたのですが、発熱も咳も倦怠感もないと。感染者数が増加しすぐには検査を受けられない、しばらく様子を見てほしいとお願いすると、突然激昂されました」
こう話すのは、都内の保健所職員・山田敏晴さん(仮名・50代)。実は山田さん、保健所では食品系の部署にいて、感染症に関する知識はほとんどなかった。だが、コロナ感染が急速に広がったことで人手が足りなくなり、応援に駆り出されていたのである。保健所のマニュアルに沿って対応をしていただけだったのだが、男性の怒りは収まらない。
「頭痛だけだとコロナの疑いがあるとは言えませんが、こんな時期に病院へ行ってください、なんてことも薦められない。電話で1時間以上、説得したのですが『コロナに決まっている』と引いてくれない。一体、なんでそんな確信を持っているのかと伺ってみたんです」(山田さん)