日本はじまりの地・奈良には、日本伝統文化の原点がある。墨、筆、薬、お茶など、様々な文化は、日本では奈良でもともと育まれたと言われている。そして意外と知られていないのが日本酒だ。普段私たちが口にする日本酒のベースは、実は奈良で編み出された。日本酒好きであれば紐解きたい、奈良酒の魅力と現地での楽しみ方を紹介しよう。
清酒が生まれた原点・正暦寺
奈良市にある正暦寺(しょうりゃくじ)は創建1000余年の寺院で、「清酒発祥の地」と称えられる。
今でこそ透き通った日本酒(=清酒)が当たり前だが、奈良時代や平安時代初期は白く濁った濁酒だった。当時朝廷内を中心に行われていた酒造りは、次第に寺院へと移っていった。
室町時代、正暦寺は大量の僧坊酒(僧侶が醸造するお酒)を造っていたが、菩提元(ぼだいもと。「元」は本来は酉へんに元)造りと呼ばれる革新的な醸造法を確立。乳酸発酵した「そやし水」を仕込み水にして酒母を造る菩提元造りによって、強い清酒酵母が育ち安定的に酒ができるようになった。これは現代の清酒造りの原点ともいえる。
菩提元造りは、明治時代後期に優れた品質の酒が安定的にできる「速醸元」が開発されたことにより、いったん途絶えてしまうも、1996年に「伝統的な酒造りを復活させよう」と菩提元研究会が発足され、500年ぶりに復活。現在、奈良県内8社の酒蔵が正暦寺境内で菩提元造りを行っている。その様子は今も、毎年1月に行われる「菩提元清酒祭」で間近に見ることができる。各蔵で醸した菩提元清酒も正暦寺で購入できるので、ぜひご賞味を。
そして聖地といえば、やはり大神(おおみわ)神社だろう。大神神社は日本最古の神社といわれており、お酒の神様として、全国の酒造関係者から崇敬を集めている。『日本書紀』によると、崇神天皇の御代、流行していた疫病をおさめるため、神様に供えるお酒造りを高橋活日命(たかはしいくひのみこと)に命じ、一夜にして美酒を醸し供えると、疫病はおさまったという。この高橋活日命は大神神社の境内に鎮まる、活日神社に杜氏の祖神としてまつられている。
人気銘柄「風の森」の蔵主に聞く。
奈良には現在30近くの酒蔵がある。どの蔵の酒も特徴的で個性豊かだ。全国の日本酒コンペティション等で受賞するなど、奈良の日本酒に対する注目度は急上昇している。
その中で、日本酒ファンをうならせる酒がある。油長酒造の「風の森」だ。
「風の森」ブランドは、すべて「無濾過・無加水・非加熱・長期低温発酵」。フレッシュで複雑味あふれる味わいが特徴だ。まだ無濾過生原酒が珍しかった20年前に販売を開始したが、「奈良県の米を主力に使い、地元の人にしぼりたての生酒を楽しんでほしい」というコンセプトは当時から変わらない。
蔵主の山本長兵衛さんは日本酒の歴史に詳しく、正暦寺の菩提元造りを復活させた菩提元研究会のメンバーでもある。「室町時代に確立された醸造技術が現代の酒造りの礎」と話し、そのうえで「技術や知見は日々進歩しています。当時なかったような醸造技術を駆使し、さらに日本酒を進化させることができるのではないか」と、現代の自分たちにしか造れない酒造りに挑んでいる。
油長酒造(ゆうちょうしゅぞう)
住所 御所市1160
電話 0745-62-2047
営業時間 9:00~17:00
定休日 土・日曜、祝日
アクセス JR御所駅から徒歩約7分
WEB http://www.yucho-sake.jp/
贅沢!老舗蔵の見学ときき当てゲーム
奈良県内の酒蔵には、ユニークな体験ができる蔵もある。橿原神宮の御神酒を造る創業300年の喜多酒造では、毎年11月、1月、2月に蔵内見学が行われ、間近に酒造りの様子を見ることができる(予約制、先着20名)。見学後、希望者は、大吟醸や純米吟醸など銘柄を伏せた5種類のお酒を飲んで銘柄を当てる「きき当てゲーム」に参加できる。色、香り、味を順に確認していくのがポイントで、舌に自信のあるツウにも好評だ。
開催日/11月、1月、2月の不定期(随時HPで公開)
料金/見学料600円(試飲、お土産付)
人数/希望者10名以上で開催(希望の場合は予約時に申し出)
喜多酒造(きたしゅぞう)
住所 橿原市御坊町8
電話 0744-22-2419
営業時間 9:00~17:00
定休日 土・日曜・祝日(11~2月は土曜営業)
アクセス 近鉄畝傍御陵前駅から徒歩約5分
WEB http://miyokiku.com/
120種類以上!奈良酒専門店で飲み比べ
奈良酒をお店で存分に楽しみたいならこちらへ。「なら泉勇斎」は、県内28の酒蔵の酒を120種類以上揃える奈良酒専門店。奈良県酒造組合認定店ゆえ、季節限定酒や新酒などレアな酒も数多い。すべての日本酒が200円から試飲できる。「純米大吟醸」や「吟醸酒」など酒の種類別の飲み比べや、同じ酒蔵の別銘柄の飲み比べなど、さまざまに楽しめるのも魅力だ。1グラス50ccなので、少量を数種類味わうもよし、贈り物の酒選びの試飲の場としても重宝する。
なら泉勇斎(ならいずみゆうさい)
住所 奈良市西寺林町22
電話 0742-26-6078
営業時間 11:00~20:00
定休日 木曜(祝日の場合は営業)
アクセス 近鉄奈良駅から徒歩約8分
WEB http://www.naraizumi.jp/
世界一のバーテンダーの奈良酒カクテル
奈良旅の夜、世界一のバーテンダーの日本酒カクテルはいかがだろうか。バーテンダーの世界大会でグランプリを獲得した金子道人さんが営む「LAMP BAR」では、金子さん自身が、2020年アジア最高のバーアワードで1位に輝いたシンガポール在住の日本人バーテンダーと、奈良市の倉本酒造と組んで生み出した日本酒ベースのベルモットを使ったマティーニが味わえる。日本酒に奈良県産のゴボウやヒノキなどを漬け込んで造ったベルモットは、ふくよかな土の香りと奥行きある味が特徴だ。酒を知り尽くすバーテンダーと酒蔵が生んだオリジナルカクテルをぜひ。
LAMP BAR(ランプバー)
住所 奈良市角振町26いせやビル104
電話 0742-24-2200
営業時間 17:00~翌1:00(日曜・祝日は~23:00)
定休日 無休
アクセス 近鉄奈良駅から徒歩約2分
元酒蔵で宿泊。限定酒で乾杯
奈良酒の旅を締めくくるのにふさわしいホテルがある。「豊祝」の銘柄で知られる奈良豊澤酒造の創業の地に建つ「NIPPONIA HOTEL 奈良 ならまち」だ。酒蔵と古民家をリノベーションした、趣のある蔵内で宿泊することができる。かつての土間が生まれ変わったモダンなレストランでは、和の要素を取り入れたフランス料理と豊澤酒造から直送される限定酒のペアリングが楽しめる。限定酒はこのレストランのために特別に醸されたもの。コース料理は酒に合わせて構成されているので、究極のマリアージュを堪能できる。
NIPPONIA HOTEL 奈良 ならまち(ニッポニアホテルなら ならまち)
住所 奈良市西城戸町4
電話 0120-210-289(VMG総合窓口/11:00~20:00)
料金 1泊2食付き37,400円~(サービス料別途)
アクセス 近鉄奈良駅から徒歩約8分
WEB https://www.naramachistay.com/
※価格は全て税込です。
※画像はすべてイメージです。
※新型コロナウイルス感染症の影響により、拝観・営業の中止、または時間変更等となる場合があります。最新情報につきましては、各所にお問合せください。
◆JR東海