緊急事態宣言に伴う政府の要請により、飲食店が時短営業を余儀なくされた東京では、20時を過ぎれば銀座、赤坂、新橋といった繁華街でも多くの飲食店が閉まる。その影響を受けているのはタクシー業界だ。
この道25年、50代後半のベテラン運転手・Aさんはこう嘆く。
「年明け早々緊急事態宣言だろ、飲食店が閉まるからタクシーもやばいんだけど、こっちは補償がない。タクシーと飲食店は共存共栄。廃業する人も増えてるよ」
Aさんは、昨年の売上高が前年比で7割減だったと打ち明けてくれた。実際この日、普段ならばタクシーの車列がある20時過ぎの赤坂見附駅前や六本木交差点を訪れると、車列も人通りも少ない状況だ。
彼らは20時以降、どこで客を拾っているのか。
「赤坂にはこっそり遅くまでやってる店もあるし、国会議事堂が近くて政治家も多いから、そういった分野の人間もいるんだ。あと、銀座は腐っても銀座だね(笑い)。でも今ならやっぱり、遅くまで働いている霞が関の役人狙いがいいね」(Aさん)
たしかに、中央省庁の合同庁舎が軒を連ねる霞が関では、客待ちタクシーの長い車列ができていた。国会対応などで深夜まで職場に残ることも多い官僚の利用を見越してのことだという。
リモート化が進まないうえに、タクシー代も税金だから懐は痛まない。そんな「お役所仕事」を運転手たちはよく分かっている。霞が関の長い車列は、深夜まで消えることはなかった。
取材・撮影/末並俊司
※週刊ポスト2021年2月12日号