古代ギリシャ神話の「戦いの神」は、男神ではなく、アテナという女神だった。アームレスリング全日本13連覇、さらに2019年にはポーランド・ズウォティで開催された世界大会52kg級右を制覇し、頂点に立ちつづける山田よう子さん(44才)は、アームレスリング界のアテナと呼ぶにふさわしい。いま彼女は、お腹の中に赤ちゃんを身ごもりながらも、戦い続けている。
外の寒風をかき消す熱気が東京・六本木の“決戦の舞台”に立ち込めていた。
昨年12月26日の夜、『T.F.C六本木』にて、山田さんが主催するアームレスリングトーナメントが開催され、全国から剛腕たちが集っていた。
金網が張り巡らされたリングの中央には、肘を置くパッドと片方の手で握りしめるグリップが付けられたアームレスリング専用の闘技台が置かれており、アームレスラーたちがその力を競い合った。
「コロナ禍でみんなが家に引きこもって、私の周りでも精神的に不安定になる知人が多かったんです。そこで何かできないかなと思っているなかで、今回のアームレスリング大会を開こうと思いたちました。たまたまそのタイミングで、会場になったお店から連絡をもらい、感染症対策をしっかり行った上で、大会の開催にこぎつけました」(山田さん、以下カギカッコ内は同)
22年という長い期間、アームレスリング界で活躍する山田さんの初の主催大会。山田さんの思いに共感し、この状況下でも、世界、国体、高校生の各チャンピオン、さらに企業経営者、現役高校生、催眠術師、イギリスからこの試合のために来日したアームレスラーなど豪華な選手が集まった。もちろん、事前に全選手がPCR検査をクリア済みだ。
試合が始まるや、たちまち金網に観客が張り付き、その勝敗の行方に熱狂。
レフェリーの合図とともに、お互いの手を握り合う選手の全身の血流が上半身に集まり、鍛え上げられた腕とグリップを握りしめる手が隆起する。その腕からは“ギリギリ、ギリギリ”という音さえ聞こえてきそうだ。
相手が腕の力をどこに持っていくのか。どのタイミングで仕掛けるか。繊細な読み合いから一気に勝負をかける様子は、まさに「世界最小の格闘技」と評されるのにふさわしい。
勝敗が決まるまではわずか1分にも満たない試合も多く、「世界最速の格闘技」ともいえるだろう。現役の世界チャンプが国体チャンプに敗れるなどの大番狂わせで、会場は大いに盛り上がった。