コロナ禍にも関わらず、日本の死者数が減っている。1月19日に発表された厚労省の人口動態統計速報によると、昨年1~11月の死者は約125万人で、前年同期比で約1万5000人も減少した。第3波で12月に新型コロナの死者が急増したものの、年間を通しての死者数は11年ぶりに前年を下回るとみられる。なぜこんな現象が起きたのか? 可能性の1つとしてあげられるのが、コロナ感染を恐れた「受診控え」だ。
病院は「院内感染」の危険と隣り合わせである。第3波が到来した昨年11月以降、都内の病院では10人以上のクラスターが少なくとも33施設で発生し、1500人以上の感染が確認された。病院にいなければ、この人たちの感染はなかったはずだ。
病院に行くこと自体、ほかの患者からウイルスや菌をもらうリスクがあり、病院に行くことによって他人に感染させる恐れがある。医療経済ジャーナリストの室井一辰さんが言う。
「日本の病院は外来の人の待ち時間が長く、待合室には風邪や体調が悪い人が入り交じっているので、そこから感染が広がるということは充分あり得ます。例えば、体調が悪くなく、骨折などのけがで外来に来ても待合室で感染症の人と一緒くたにされてしまえば、感染するリスクがあるわけです」
病院は不特定多数の人が出入りするので、ソファやドアノブなどにウイルスや菌がついている危険なエリアがたくさんあるのだ。
健康な人が病院に行くことで、院内感染を引き起こすこともある。
「病院にいるような体力が低下して免疫が落ちた人ほど、感染リスクが高い。見舞いの人や外来の患者が、通常は共存しても問題ない常在菌(健康な体にも存在する菌)を持ち込んでしまい、患者に感染させ、体調を悪化させる可能性があります」(室井さん)
なかでも注意すべきは、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)という常在菌だ。米ボストン在住の内科医・大西睦子さんが説明する。
「MRSAは人間の皮膚や鼻腔、咽頭などに常在する菌で、一般的に健康な人には無害です。しかし、入院中や通院中で抵抗力が弱っている人が感染すると、呼吸器感染症や肺炎などを起こします。最悪の場合、肺炎による呼吸困難や敗血症などで死亡します」
肺炎は高齢者を中心に年間10万人以上が死亡する。厚労省が公表する「死因別の死亡者数」によると、昨年1~8月の肺炎による死亡者数は5万3306人で、前年同期から1万807人減った。約20%も減ったことになる。また肺炎のほか、インフルエンザや急性気管支炎、慢性閉塞性肺疾患などを含む「呼吸器系の疾患」で比較しても、死者は前年同期より1万4731人減少した。
「呼吸器系疾患の死者が減ったのは、各医療機関が感染対策を徹底したことで、普通の風邪やインフルエンザにかかる率が減ったこととともに、受診控えで院内感染が減ったことも要因の1つであると考えられます」(室井さん)
命を守るためには、病院に通うリスクも考慮しなければならないのだ。
※女性セブン2021年2月18・25日号