新型コロナウイルスの感染拡大で、以前よりストレスを感じることが増えたという人も多いだろう。0~6才の子供がいる既婚男女を対象にした調査によると、「夫の育児にイライラすることが多くなった」「子供にイライラすることが多くなった」など、コロナ禍で家族が一緒に過ごす時間が増えたことでストレスが増加したという意見が約4割を占めた(2020年7月、明治安田生命)。
かといって外に出れば、感染不安はもちろん、過激すぎる自粛警察の目にさらされて余計に疲れることになる。もはや安住の場所は、家の外にも中にもない──このストレスに、どう対処すればいいのだろうか。
ちゃぶ台返しより「左のげんこつ」が効く
ストレスがたまれば、誰しもモノに当たったことがあるだろう。これ見よがしにドアをバタンと閉めたり、誰にも見られないように、こっそりクッションを殴ったり……怒鳴ったり手を出したりするよりは、八つ当たりの方がマシ、という考え方だ。
しかし、『図解ストレス解消大全』(SBクリエイティブ)の著者で明治大学教授、心理言語学者の堀田秀吾さんは、八つ当たりは逆効果と指摘する。
「米オハイオ州立大学で、とある実験が行われました。同じ条件下でイライラを抱えた被験者にパンチングバッグを殴ってもらったところ、被験者は皆攻撃的になり、関係ない人にまで怒りをぶつける始末でした。モノに当たるのは、ストレス発散どころか、イライラや怒りを増幅させる可能性があるのです」
怒りが大きくなると、唾液に含まれるアミラーゼという酵素の分泌量が増える。脳科学者の杉浦理砂さんが、このメカニズムを使った同様の実験について話す。
「イライラを抱えた被験者にちゃぶ台返しをしてもらい、アミラーゼの分泌量を測ったところ、過去の解決済みの問題を思い出して怒っていた人は、分泌量が減りました。一方で、現在進行形の問題を思い描いて怒っていた人は、一様にアミラーゼの量が増えたのです。つまり、未解決の怒りをそのままモノにぶつけると、怒りもストレスも増幅されるのです」
では、とっさの怒りにはどう対処すればいいのか。
堀田さんがすすめるのは意外な方法だ。ただ「左のこぶしをギュッと握るだけでいい」という。
「人間の脳は、怒りを感じると左前頭部が活性化し、一方で、右前頭部は怒りを回避しようとする反応に関連しているとされます。これを逆手に取って、反対側の右前頭部を無理やり活性化させてしまえばいいのです。脳と体は左右逆に反応するので、左手を強く握ることで右脳が活性化し、怒りを抑えることにつながるのです。
米テキサスA&M大学の実験では、怒りを覚えたときに右手を握りしめた人は攻撃的になり、左手を握りしめた人は怒りが収まったという報告もあります」(堀田さん)
怒りのあまり、誤って右手を握らないようにしたい。