新型コロナウイルスの感染拡大によって三度目の緊急事態宣言が発令され、さらに首都圏を中心に1ヶ月の延長も決まった。この宣言によって求められている対策は、果たして庶民の生活を持続させるための知恵を蓄えたものになっているのだろうか。時短営業を求められている飲食業界では、商売を続けるためにあえて営業を続けるという選択をする店舗が増えている。ライターの森鷹久氏が、ギリギリの選択を迫られ続ける飲食店側の懐事情についてレポートする。
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東京都下にある某ターミナル駅近くのラーメン店の前には、6人ほどの行列。皆一様に下を向き、道ゆく通行人の怪訝そうな視線から顔を隠しているかのようにも見える。1月下旬、時刻は午後9時を回ったところである。
「飯食うとこないですもん、仕方ないですよ」
列に並んでいた近くに住むサラリーマン(30代)は声をひそめて言う。年明けに発令された緊急事態宣言の影響で、付近の飲食店は軒並み午後8時までで営業を終えている。時短営業に協力する店舗には、1日あたり6万円の協力金が得られることもあってか、一度目の緊急事態宣言時より多くの店が営業を夜8時までで切り上げている。一方、前述のラーメン店のように「夕食難民」と化した残業帰りのサラリーマンなどが、通常通り営業する一部の飲食店へ殺到している。
「以前は一日100杯ちょい行けば良い方。今は150杯出ることもある。1回目(の緊急事態宣言)に痛い目を見て、今回いくら6万円もらえるからと言っても、もう(時短の)受け入れをするのは難しいかなと思いましたね」
こう話すのはラーメン店の関係者。実は、一日6万円、一ヶ月180万円の補償金があれば、時短営業でも十分やって行けたかもしれないと続ける。
「家賃、人件費、他の固定費を払い続けるだけなら、日中はお客さんも普通に来てくれますし、正直『得』をしたかもしれません。ただ、休めば客は離れる。1回目(の緊急事態宣言)の時、休んだり時短営業した店のほとんどは、その後の客足が100パーセントには戻っていないんです。だから、時短もしません。今、いくばくかの金を掴まされて休むより、その先のことを考えて営業しているんです」(ラーメン店関係者)