1月12日にソフトバンクの高速・大容量通信規格「5G」に関する技術情報を持ち出したとして、同社から楽天モバイルに転職した45歳男性が警視庁に逮捕された。このところ一流企業で情報漏洩が相次いでいる。日経ビジネス記者の吉野次郎氏が指摘する。
「近年、情報漏洩につながる営業秘密侵害の検挙数は右肩上がりです。特にニーズがあるのは、日本企業が得意な化学などの分野。ただし単なるヘッドハンティングと情報目当ての“引き抜き”を見分けることは難しいうえ、持ち出された企業が情報管理の甘さを指摘されることを怖れ、表沙汰になることは少ない」
漏洩者がリスクを冒して情報を持ち出すのは、相応の「対価」のためだ。
「海外へ盗まれるイメージが強いが、国内の企業の間で問題になるケースがほとんどです。社員が自ら技術資料や顧客名簿などを転職先に持ち出す場合、10%増しほどの年収でライバル会社に移る。そして、転職後にさらに年収を高めようと元の会社の情報を業務に活用します」(吉野氏)
リスクの割には身入りが少ない印象を受けるが、海外企業が用意する報酬は段違いだ。
「倍以上の場合も少なくない。私が取材したところ最近、日本の部品メーカーの社員が中国の同業者に技術情報を持ち込んで転職したケースでは、年収が推定で2.5倍になりました」(吉野氏)
今日も水面下では札束の飛び交う情報戦争が繰り広げられている。
※週刊ポスト2021年2月19日号