「人の噂も七十五日」。どんな噂であってもしばらくすれば消える、という意味のことわざだ。「叩いていい人」が次々と切り替わっていくネットの世界は、このことわざを体現しているのかもしれない。ネットニュース編集者の中川淳一郎氏が、ネットでの「叩いていい人」認定の無責任さについて考える。
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ネットの手のひら返しというものは実に無責任である。「こいつは叩いてもいいヤツ」という空気が生まれたら徹底的に叩き、飽きるまで続ける。そして、次の叩いてもいいヤツ認定を受けた人間に移ってその人物を叩き始める。ここでも日本人は謎の「空気を読んで『叩いていい人を決める』」という同調圧力を発揮するのである。
2月1日のデイリースポーツ電子版にこんな見出しの記事が出た。
〈ザブングル松尾が引退発表 「水神様」ファン沈む…「悲しい」「最後に特集を!」〉
お笑いコンビ・ザブングルの「じゃない方」である松尾陽介のことである。相方は「カッチカチやぞ!」で知られる加藤歩だ。
この記事に対するコメントには「松尾さんは、引退しても先輩達や芸人仲間が見放さないと思う。居心地の良い感じが出てる」など、松尾の引退を悲しむ声、ないしは40代になって大ブレイクをこれ以上するのが難しい以上、判断の妥当性を称賛する声、あるいはテレビに出ていた頃の松尾をホメる声が圧倒的に多かった。
だが、松尾は2019年に「反社会勢力への闇営業」問題で謹慎したうちの一人で、当時ザブングルは猛烈に叩かれた。その後、反省の意を示すために介護のボランティアをしたりするも、「偽善だ!」「介護を甘く見るな!」などと批判された。
しかしあれから1年半、世間の空気感はあの時「悪の総本山」的だった芸人の闇営業に一切の関心はなく、あくまでもコロナが最大の関心事になっている。あれだけ連日話題になった「闇営業」はどこへ行った?
そして翌2020年初頭のネットでの最大の話題は「木下優樹菜がサッカー日本代表・乾貴士と不倫か? 2人の関係を特定するネットの“鬼女”とは?」というものだった。補足すると「鬼女」とは「きじょ」と読み、匿名掲示板・5ちゃんねるの「既婚女性板」に出入りする人々のことで、ネット上の情報の点と点を繋ぎ、疑惑を特定することに長けた人々のことを言う。