新型コロナウイルス感染拡大による医療体制の逼迫が叫ばれるなか、コロナ後の「医療崩壊」も危惧されている。大きな問題は、医学部の学生の「臨床実習」ができないことだ。コロナの影響で多くの医学部が臨床実習を取りやめ、オンラインでの模擬実習やレポート提出に切り替えた。
文科省は臨床実習が中止されても必要な単位を履修すれば、国家試験の受験資格を認める方針だが、このままでは問診が不慣れな新人医師が大量発生することになる。
若手医師も同様の問題に直面する。都内の病院で働く整形外科医が語る。
「今は『ホット』と呼ばれる急を要する手術が優先で、『コールド』と呼ばれる不急の手術は激減しました。コールドは人工関節など特殊なオペが多く、長期間手術をしないと速度が落ちるなど、技術力の低下は避けられない。特に経験の少ない若手医師は勘が鈍り、影響が大きくなると懸念しています」
看護師も「実習難民」だ。日本看護学校協議会調査では、昨年、全国の看護学校316校の9割が病院実習を拒否された。
「看護師の『患者に安心感を与えるスキル』が育たないことが心配です」と語るのは医療ジャーナリストの油井香代子氏。
「入院患者の精神面をケアして落ち着かせることは、看護師の重要な役割です。終末期患者の余命が、看護師のスキル次第で1か月から3か月になることもある。病院実習の中止でそうしたスキルを身に付けられないと、入院患者の生活の質が低下する可能性があります」(油井氏)
介護についても実習の機会が少なくなっている。「コロナ以降、全研修をオンラインに切り替えました。結果的に受講率が上がり、効率的と評価されています」と、介護大手関係者は実習減の影響に否定的だが、一方で専門家は事故の増加を懸念する。
「今の介護現場はコロナでベテランが離職する一方、他の業種で職を失った人が新たに流入しています。オンライン研修を受けて現場に出る新人は対人経験が不足し、利用者の転倒や食事介護時の喉の詰まりなどの事故が増える恐れがあります。
現在はコロナでデイサービスの廃業が相次ぎ、訪問介護が主流になっている。新人ヘルパーが利用者とマンツーマンで働くことが増えているため仕事仲間が傍におらず、ミスしても適切な連携が取れないなど、この先、介護現場で様々な問題が浮上するリスクがあります」(ケアタウン総合研究所所長の高室成幸氏)
※週刊ポスト2021年2月19日号