菅義偉・首相は前任者と違い、夫人が目立つこともなく、家族の話をすることもほとんどない。何より、自身が世襲政治を批判し、それと一線を画してきた。だからこそ、「ロン毛の長男」が引き起こした問題は、政治生命を脅かすものとなりかねない。
彼が守りたいのは家族か、それとも利権か、ノンフィクション作家で新著『菅義偉の正体』が話題の森功氏がレポートする。(敬称略)
スポンサーとのつなぎ役
恐ろしいことに近頃では、支離滅裂な首相答弁にも慣れてきた感がある。だが、さすがにこの件は「息子は別人格」という言い訳だけで幕引きとはいきそうにない。
「東北新社の社長(創業者・植村伴次郎)っちゅうのは、私も秋田の同じ出身ですから、まあ先輩でもう亡くなりましたけど、いろんなご縁があって応援してもらってることは事実ですけども……」(2月4日の予算委員会)
第一次安倍政権での総務大臣秘書官から東北新社に転職した長男の菅正剛は現在、同社のメディア事業部趣味・エンタメコミュニティ統括部長という職にある。映像制作会社の東北新社は、衛星放送事業を手掛け、菅が大臣を経験した総務省が認可を下ろしている。
そんな利害関係企業に就職した元大臣秘書官が、総務省の幹部たちを接待漬けにしていたのである。接待を受けていた4人は、省内でも指折りの高級幹部官僚たちばかりだ。『週刊文春』(2月11日号)が写真付きでバッチリその模様をすっぱ抜いた。
ただし、なぜ菅の長男が総務官僚に接待を繰り返していたのか、具体的な狙いは報じられていない。そもそも総務大臣秘書官はどうして東北新社に再就職したのか、そこも不明だったが、その点についてある官邸関係者がこう打ち明ける。
「焦点は息子が東北新社で手掛けている『囲碁・将棋チャンネル』番組でしょう。実はこの番組づくりにかかわっているのが、菅首相のスポンサー企業です。菅の長年の支援者である『ぐるなび』の滝久雄会長が音頭を取り、JR東日本をはじめ、菅さんと縁の深い企業を番組のイベントスポンサーにつけています。そのつなぎ役として長男の正剛君が送り込まれた。そう見ていいのではないでしょうか」
息子の手掛けるビジネスに菅の有力支援者が集って協力している。平たくいえば、菅の息子は政官業の利権の中にあるのだという。
囲碁番組をめぐり複雑に絡み合うそれぞれの思惑を読み解く。