犬や猫は法律上「物」であっても実際には「命」である。ところが、命とも思わず捨てる人間がいる。物のように安易にサプライズのプレゼントに使ったり、自分の都合で買った店に返品したりする人間がいる。俳人で著作家の日野百草氏が、コロナ特需に沸くペットショップと売れ残った動物たちの行方、返品などの非常識な客の実態についてレポートする。
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「やっぱり飼えないから返すって飼い主、本当にいます」
元ペットショップ店員、篠山あゆみさん(20代・仮名)が小さな声でこぼす。運ばれてからずっとコーヒーに口をつけず、元いたホームセンター併設のペットショップの悪口を一通り語り尽くしたあと、客の非常識について語り始めた。
「ペット禁止の団地でバレたからとか、プレゼントで買ったのに受け取らなかったとか、地獄ですよ」
一部の専門ブリーダーや特殊な動物を扱うような専門店を除けば、日本のペットショップの大半は顧客の住環境や生活パターンをヒアリングした上で犬や猫を渡すという仕組みがない。ペット禁止の団地やワンルームの住人でも金さえ払えば犬を買える。極端な話、四畳半の独居であっても客は金さえ払えば大型犬を買えるし、店は売れて金になればいい。
「そうです。命が売れればいいんです。命がお金になればいいんです」
篠山さんは「命」を繰り返すが、ペットショップの販売する生き物は民法上、「物」だ。「この法律において、『物』とは、有体物をいう。」の民法第85条が動物という有体を「物」と判断する根拠となっている。この有体物の中で例外は人間だけだ。つまりペットは排他的に支配できる、所有できる「物」である。日本のペットショップが「命」の売買をできる法的根拠がこの民法第85条だ。かつて人間を売買できたように、犬でも猫でも売買できる。売ってお金にできる。
「それを非難することは私にはできません。バイトでも働いていたわけで。でも働いてみてわかったのは、本当に理解不能な人がたくさんいるということでした。普通、お迎えしたあとに気に入らないとか、やっぱ飼うのやめたで返品したりしませんよね」
篠山さんがペットショップのアルバイトをした理由は、単純に動物が好きだから。もちろん働いてすぐそのギャップに苦しむこととなった。