映画史・時代劇研究家の春日太一氏による、週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、俳優の国広富之が、「必殺」シリーズの撮影で見聞きした緒形拳さんと林隆三さんについての言葉を紹介する。
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国広富之は京都学園大学在学中にエキストラのアルバイトとして撮影に参加、役者としてのキャリアを始める。通っていたのは京都映画撮影所(現・松竹京都撮影所)。時代劇を専らに撮る撮影所だ。
「大部屋に所属させてもらいました。あまりに熱心に通うものだから、三か月すると『お前のかつら、用意しといたから』って、自分のかつらや羽二重をいただきました。できる人は自分でやらせたいんです。放っておいても衣装もかつらも自分で着けられるわけですから。エキストラだから、クローズアップもないので、適当に合わせて色塗って。それで大丈夫でした。
大部屋ってスターになりたくて頑張る人もいるんですが、大概の人は職業としてやっていました。そういう先輩がセリフのある役を回してくれるんですよ。
なんでかというと、役につくとワンシーンで一万円のギャラ。エキストラはワンシーンで三千五百円。夜までやったら二つシーンに出られて七千円になります。それを一週間やると三万五千円。でも、役についたら、その回はそのワンシーンしか出られません。あとの四日は仕事がない。だから、みんなやりたがらないんです。でも、僕は嬉しいから『やります!』と言ってやらせてもらいました」
当時、京都映画で撮影していたのは「必殺」シリーズ。中でも緒形拳と林隆三が主演した第五作『必殺必中仕事屋稼業』(一九七五年、朝日放送)の現場は国広に強い印象を与えている。