朝から晩まで、家事に仕事にと慌ただしい毎日を送る人が多い現代。それだけに「布団にもぐりこむときには至福を感じる」という人も少なくないはずだが、実はその“安息の時間”にも生命が危険に直面していることがあるという。神奈川県に住む佐々木芳恵さん(53才・仮名)は、沈んだ表情で10年前を振り返る。
「冬のある日、私が先に起きて朝食の準備をしていたら、一緒に寝ていた当時まだ40代前半の夫が目覚まし時計をなかなか止めようとしなかった。『会社に遅れちゃうよ』と言いながら起こしに行ったら、様子がおかしい。よく見ると呼吸をしておらず、ぐったりしている。
とっさに救急車を呼んで病院に搬送されたのですが、医師から『明け方頃、心臓疾患で亡くなったと思われます』と告げられたのです。その日は気が動転したまま、現場検証に来た警察官から、根掘り葉掘り事情聴取をされました」
亡くなった原因は急性心筋梗塞の疑いが強いという。しかし、死亡後では心電図が取れないので確定はできなかった。
よく耳にする「心筋梗塞」とは、心臓へ酸素と栄養分を運ぶ「冠動脈」が、なんらかの原因で詰まって血流が途絶え、心臓を動かす筋肉(心筋)が死んでしまう恐ろしい病気だ。前触れなく突然に襲う「急性心筋梗塞」は、国内で年間15万人が発症し、そのうち30%、年間にすると約4万人が亡くなっているとされる。秋津医院院長の秋津壽男さんが解説する。
「急性心筋梗塞は発症後1時間以内に病院に搬送できなければ3~5割が死に至るといわれています。さらに、発症者の3分の1は不整脈を併発する。そうなった場合は脳への血流も失われ、わずか数分で亡くなってしまいます」
冒頭の佐々木さんの夫の場合は寝具の乱れもなく、数分で意識を失ったと推察されたが、秋津さんによれば、急性心筋梗塞は激痛を伴うことも少なくないという。経験者はその痛みを「胸に焼きゴテを当てられたよう」と形容するが、それほどの激痛が10分~2時間ほど続くこともある。
※女性セブン2021年3月11日号