NHKの労働組合が経営側に送った申し入れ書(1月22日付)には、こんな一節があった、
〈視聴者の知る権利に応えず、「健全な民主主義の発達」を損ね、NHKの信頼を棄損する可能性が強く、承服しかねる〉〈現場制作者たちの、やりがいの喪失は、計り知れない〉
1月24日に放送予定だったNHKスペシャル『令和未来会議 どうする? 何のため? 今こそ問う 東京オリンピック・パラリンピック』が収録日(1月17日)の2日前に突如として放送延期に。現場では“寝耳に水”の決定だったため、大騒動になっているのだ。
「五輪開催の是非を討論する番組でしたが、正籬聡副会長兼放送総局長ら上層部の判断で差し替えが決まった。専門家や一般視聴者を招いて討論すれば、開催に否定的な意見が出てくるのは間違いない。それを危惧した上層部が官邸や五輪組織委への忖度で延期したのではないかと問題視する声が多くの局員から上がり、労組が経営陣に説明を求めた」(NHK局員)
それに対して経営側から戻ってきたのは、
〈このタイミングで半年先の大規模スポーツイベントをどう開催するかという番組を放送することは、「令和未来会議」がめざす「冷静で建設的な議論の機会を提供する」ことにつながらないと判断した〉
という回答だった。
「今回の番組では100人を超える方々にオファーしていた。出演者にキャンセルの報告をするスタッフは大変な思いをしたようです。自分の意見を主張するため準備してくれた人も多かったのに申し訳ない。
回答書には〈緊急事態宣言が解除され、放送が視聴者にどう受け止められるのかを見極めて、改めて適切な放送時期を検討していきたい〉とも書かれていたが、反対の世論が強い間は実現しないのではないか」(NHKスタッフ)
NHKは「個別の番組編成や取材・制作の過程についてはお答えしていません」(広報局)とするのみ。
「みなさまのNHK」が、国民の声を聞く機会を自ら放棄してしまったとは皮肉である。
※週刊ポスト2021年3月12日号