現地時間2月28日、トランプ前大統領が退任後初めて公の場で演説し、変わらぬトランプ節を披露した。保守派の大規模集会として知られるConservative Political Action Conference(保守的政治行動会議)に招かれ、その最終日に「真打ち」として登壇したのだが、トランプ氏の復権を望まない共和党議員らは欠席したため、まさにトランプ派の新たな決起集会の様相を呈した。会議の出席者を対象にした投票では、2024年の共和党大統領候補として55%がトランプ氏を選んだという。
もっとも、トランプ氏が退任後に滞在しているフロリダで開かれたにもかかわらず、同氏は1時間以上遅れて登場するなど、相変わらずのマイペースだった。アメリカでも日本でも、トランプ氏が共和党と決別して第3の党を設立するのではないかという報道があったが、演説ではそれを明確に否定し、「見事な考えだろう? 新党を作って票を割れば、決して勝つことはない」と皮肉を言って、新党報道はマスコミがトランプ氏の力を削ぐために勝手に流している作り話だと印象づけた。
すでにNEWSポストセブンでリポートしたように、もともとトランプ氏が新党を作る可能性は高くなかった。党を割れば、割ったほうが負ける。そこはトランプ氏の言う通りだ。筆者の取材では、トランプ陣営は今後も共和党を支配し続けることを最大の眼目としており、むしろ新党の話はトランプ氏を切りたい一部の保守派のアイデアである。そもそも、「効率とスピードを重視するビジネスの手法を好む」(トランプ氏の友人)という同氏が、手間も時間もお金もかかる新党を考えるとは思えない。効率とスピードを重視するからこそ、デジタル・メディアを買収して「トランプ・チャンネル」を立ち上げ、そこを舞台に共和党内のトランプ派をまとめあげていくことが同氏の戦略だろう。
演説では、共和党内の反トランプの動きを牽制する言葉が際立った。弾劾裁判で有罪票を投じた共和党上院議員7人(リチャード・バー、パット・トゥーミー、スーザン・コリンズ、ベン・サス、ビル・カシディ、ミット・ロムニー、リーサ・マーカウスキーの各議員)の名前を一人ずつ挙げ、さらに下院ナンバー3のリズ・チェイニー議員も名指しして厳しく批判した。彼らは恐ろしかったことだろう。連邦議会議事堂に乱入し、捜査で明らかになったところでは、議事堂の爆破まで計画していた過激な右翼集団が、今度は彼らを標的にする危険性もある。弾劾理由になった民主主義への暴力での対抗を煽る過ちを再び犯そうとしているに等しい演説だ。共和党へのグリップを緩めず、党の元締めは自分だと思い知らせる目的なのだろう。