美術史家で明治学院大学教授の山下裕二氏と、タレントの壇蜜。日本美術応援団の2人が、日本の美術館や博物館の常設展を巡る「美術館に行こう!」シリーズの特別編。
今回は、大正から昭和初期にかけて、様々なジャンルで偉才を発揮し一時代を築いた小村雪岱の足跡を辿る『小村雪岱スタイル――江戸の粋から東京モダンへ』展に2人が訪れた。着物姿で現われた壇蜜は、雪岱の世界観に触発されて、いろんなポーズを取り始めて……。
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山下:日本橋室町の三井記念美術館で開催中の東京展では日本橋の花柳界を舞台にした泉鏡花『日本橋』の装幀本から展示が始まります。大正3年、雪岱初の装幀です。
壇蜜:色使いや構図がとてもモダン。絵を見ただけで様々に妄想がかき立てられて、物語が浮かびます。
山下:昭和に入り、朝日新聞に連載された小説『おせん』の挿絵で雪岱は確固たる地位を築きました。「雪岱調」といわれる江戸情緒溢れる画風を完成させ、“昭和の春信”と讃えられるほどの存在に。『おせん 縁側』と鈴木春信の『夜更け』を比べると、床面の斜めの線や女性のしなやかな体の動きがよく似ています。
壇蜜:衿のラインにも共通点がありますね。雪岱の描く女性は扇情的でなく美少年のように凜々しい。『おせん 縁側』はおせんが胸をはだけていても、全然いやらしさを感じさせません。
山下:女性が中性的に描かれているからです。敬愛する泉鏡花の紹介で結婚はしましたが、おそらく雪岱は女性を性的な対象として見ていなかったのでしょう。
壇蜜:美しい女性を美しいと判断はしても作品というか、アートの延長として捉えているような印象です。
山下:ゆえに、これだけ清潔な女性像が描けたのだと感じます。肉筆画の『こぼれ松葉』でも風に舞う1本の松葉を眺める女性の清らかで美しいこと。料理に喩えるならば、雑味のない最高のすまし汁のようです。
壇蜜:柚子の皮(=松葉)を添えただけの、上品でやさしいお出汁の味わいを思わせます。静寂な畳の間に三味線と鼓がひっそり佇む『青柳』も、惹かれます。