新型コロナウイルスの感染拡大はデジタル化の遅れなど、日本社会の様々な問題点を浮き彫りにした。危機をきっかけに、この国はどう変わっていけばいいのか。若い世代を中心に絶大な支持を集めるメディアアーティスト・落合陽一氏に、コロナ後の社会を見据えた取り組みについて、話を聞いた。
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昨年から猛威を振るった新型コロナウイルスは、人々の生活に多くの影響を与えています。健康面でも経済面でも多くの被害が出てしまいました。
でも、悪いことばかりではありません。この危機は日本社会に大きなチャンスをもたらした面もあります。
昨年4月の緊急事態宣言以降、在宅勤務やテレカン(遠隔会議)などが当たり前の世の中になりました。私自身、今朝は8時から8時半まで会議、8時半から9時半まで大学の授業、9時半から会社の取締役会……といった具合に、すべてオンラインで隙間なく仕事を詰め込んでいます。この取材が始まる1分前まで、講演をやっていました。
オフラインだったら、最低でも移動に30分程度はかかります。移動時間ゼロでスケジュールを組めるのは、本当にすばらしい。1時間で15分のミーティングを4つこなすこともできる。昔は、超売れっ子の芸能人や総理大臣でも、こんな働き方はできなかったでしょう。
いくらでも忙しくできてしまう分、ストレスの管理や運動不足の解消などが課題になりますが、これだけ時間の効率が高まれば、そのためのゆとりも作りやすくなるのではないでしょうか。
〈最先端のテクノロジーを駆使するメディアアーティストとして「現代の魔法使い」の異名を持つ落合陽一氏は、1987年生まれの33歳。筑波大学准教授、デジタルネイチャー開発研究センター長を務める研究者であり、内閣府知的財産戦略ビジョン専門調査会委員などを歴任する時代のキーマンだ。ネットメディアなどでの積極的な発信も、世代を超えて注目を集めている〉
オンライン中心の働き方は、技術的には少し前から可能になっていましたが、コロナ禍がなければこれほど急速に広まらなかったでしょう。富士通やヤフージャパンなど、出社を基本的にやめてしまった企業はたくさんあります。いちいち満員電車に乗ってオフィスに行かなくても多くの仕事は成り立つとわかってしまった。たとえ感染が収束しても、元に戻す必要はありません。
「ワーク・ライフ・バランス」を考えるどころか、「仕事=人生」にしてしまう企業文化で生きてきた世代の人は、会社に行かないと仕事をした気にならないのかもしれません。でも、本来は歳を重ねた人ほど移動の負担がなくなるテレカンのほうが楽なはず。もちろん、人と会って飲み食いするのは楽しいし、飲食店も大変ですから、それは元に戻ってほしい。でも仕事で対面にこだわる必要は、もうなくなると思います。
※週刊ポスト2021年3月12日号