世界を混乱に陥れた新型コロナウイルスの感染拡大。同時に、日本社会におけるデジタル化の遅れが認知されるなど、様々な問題点を浮き彫りにしている。筑波大学准教授でメディアアーティストの落合陽一氏は近年、大学の研究室や自ら代表を務めるピクシーダストテクノロジーズ株式会社、研究者代表を務める国のプロジェクト「xDiversity」などで、障害を持つ人の補助や介助に関わるプロジェクトに力を入れている。デジタル化が加速するコロナ後の社会で、その分野にどのようなテクノロジーが実装されるのか。落合氏が語る。
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多様性のための技術を研究していると、よく「かわいそうな人を助ける研究」のような切り取られ方をしますが、強い違和感を覚えます。たとえば居酒屋で、たまたま隣にいた外国人と交流ができたら、同質な日本人とだけ話すよりも、世界が広がって楽しいでしょう。多様な人とのコミュニケーションには、大きな価値があります。それが、ダイバーシティ(多様性)というテーマに取り組むいちばんの理由です。
研究の一例を紹介しましょう。いまは、音声をリアルタイムでテキスト化する技術の精度が向上したので、AR(拡張現実)を利用したゴーグルを使えば、耳の聞こえない人が目の前で喋っている人の言葉を字幕にして読むことができます。
ただし、聴覚障害者だけがゴーグルをつけていると、喋っている人には字幕が見えません。音声のテキスト化も完璧ではないので、誤変換などのミスがあるのですが、それが話し手の側にはわからないわけです。大学の研究室には聴覚障害のある学生もいるので、実験をする過程でそういう課題があることがわかりました。そこで私たちは、話し手と聞き手が透明なディスプレイを挟んで向き合い、そこに出る字幕を一緒に見ながら会話ができるようなデバイスを作ろうとしています。
これからの社会では、こうした技術が、聴覚障害や視覚障害のある人たちだけでなく、多くの高齢者の役に立つことになるでしょう。人間は加齢によって耳が遠くなったり、目が見えにくくなったりします。それをカバーする技術が求められるようになると考えられるので、高齢化の進行は、多様性の実現にとってある意味で追い風ともいえるのです。
聴覚障害者のための技術は、高齢者の認知症を減らすことにつながる可能性もある。耳が遠くなると、認知機能が低下するという話があります。人との対話が楽しくなくなり、孤立してしまうことが一因でしょう。テクノロジーの力で聴覚が衰えてからも活発に人と交流できるようになれば、脳の働きも活性化する可能性はあると思います。