人気漫画『相談役 島耕作』の主人公・島耕作の新型コロナウイルス感染が話題になっているが、フィクションにどこまで現実を反映させるかは作り手にとっては大きな問題だ。登場人物がマスクを着け、ソーシャルディスタンスを守り、飲食店は20時で閉店する──そんなリアルな世界を描くべきか、はたまた創作は自由であるべきか。コロナ禍の新たな表現様式について漫画家のさいとう・たかを氏が語った。
* * *
『ゴルゴ13』ではキャラクターの喜怒哀楽を「目」で語らせていますから、デューク東郷がマスク姿になって口元の動きに変化がなくなったとしても問題はありません。彼に追い詰められたキャラクターの心の乱れや恐れも同様なので、マスクをするかどうかによって作品の魅力が落ちるとは思っていません。
ですが、ゴルゴの世界にコロナを反映させるつもりはありません。
劇画の世界観に「リアリティ」をどの程度持ち込むかは、作家それぞれの考え方だと思います。私個人としては、世の中に振り回されすぎずに読者と向き合いながら、今まで通りに淡々と創作していくつもりです。
ほかの先生方が描いた「コロナ禍を描いた作品」については、読むかどうかも含めて今の事態が落ち着いたら考えたいと思っています。
最近はタバコを吸うシーンを描くことなどに対して「倫理的によろしくない」という風潮もあります。今後こうした動きが行きすぎて、「マスクをしていない姿を描くとはけしからん」などとなることには反対です。
私は倫理観というのは誰かが押しつけるものではないと思っています。読む人に夢を与えるのが劇画の役割だと考えているので、『ゴルゴ13』を世間の目ばかり気にした作品にはしたくはないのです。
ちなみにラブシーンについては、政府も「恋人と密になるな」とは言っておりませんので、是非について考えたこともない。ただそれも含めて、読者の皆さまが良しとするかどうかです。
※週刊ポスト2021年3月19・26日号