健康志向の高まりを受け、「発泡酒」や「第3のビール」で数多く見られるようになった“糖質オフ/糖質ゼロ”の商品。ついには本格ビールでも登場して話題となっているが、ビール離れが続く中、糖質を抑えた商品は今後も新カテゴリーとして定着するのか──。経済ジャーナリストの河野圭祐氏が各社のビール戦略に迫った。
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ある日の大手スーパーの酒類売り場。シニア世代の夫婦がビール類の棚を眺めながら、
「糖質ゼロが流行っているんだってねぇ」と言葉を交わしつつも、手を伸ばして買い物カゴに入れた商品は機能性ではない、普通のビール銘柄だった。
もちろん、健康を気にする人には糖質ゼロビールは刺さったと目され、味が物足りないと思う人もいれば、価格重視で発泡酒や第3のビールをチョイスする人、逆にプレミアムビールの棚に手を伸ばす人など、味覚や選好は人それぞれだ。
コロナ禍で業務用ビールは大打撃を受けたが、スーパーやコンビニと違って、飲食店向けはいわゆるビールがほとんどで、「発泡酒」や「第3のビール」はほぼないに等しい。ビールメーカーとすれば、飲食店需要が蒸発してしまった分は、主戦場となった家庭用で取り返すしかない。昨秋の酒税改正第1弾でビールが減税、発泡酒が据え置き、第3のビールが増税となったことから、家庭用ビール拡販の追い風要因もある。
開発に5年を要したキリンの糖質ゼロビール
コロナ禍によって健康に気を遣う人が増えたが、その点を訴求する「糖質オフ」や「糖質ゼロ」といった商品は過去、発泡酒や第3のビールのジャンルで展開されてきた。主だったところでは、「淡麗グリーンラベル」(糖質70%オフ/キリンビール)や「金麦」(同75%オフ/サントリービール)をはじめ数多く、正直、すべてはとても覚え切れない。
これまで、狭義のビールカテゴリーでは糖質ゼロ商品はなかったが、そこに風穴を開けたのが、昨年夏に「一番搾り糖質ゼロ」を発表(発売は2020年10月)したキリンだ。
同社は過去、1999年に「ラガースペシャルライト」、2003年に「ラガーブルーラベル」という、ともに糖質50%オフ(アルコール度数もともに5%)のビールを発売しているが、定着するまでには至らなかった。ビールは麦芽を50%以上使用することで麦のうま味が引き立つが、同時に糖質量も上がってしまう。
そこで、キリンは「一番搾り糖質ゼロ」の試醸を350回以上も繰り返し、糖質低減に適した麦芽の使用や、発酵技術を進化させて、通常より元気な酵母を使って糖質を食べ切るようにした。こうした技術ハードルの高さから、開発には5年を要している。