コロナ禍で新しい生活様式が広まっていくなか、フィクションにどこまで現実を反映させるかは作り手にとっては大きな問題だ。登場人物がマスクを着け、ソーシャルディスタンスを守り、飲食店は20時で閉店する──そんなリアルな世界を描くべきか、はたまた創作は自由であるべきか。コロナ禍の新たな表現様式について、『深夜食堂』の作者である漫画家の安倍夜郎氏が語った。
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そもそも深夜の食堂という形態はコロナ禍では営業が難しい。幸いというか僕としては最悪でしたが、昨年春頃に体調を崩してしばらく入院していて、『深夜食堂』は休載していました。
今年3月に連載を再開するにあたって、漫画の中でも「めしや」を店主の都合で約1年近く休んでいる設定にしました。
そして再開するならやはり「コロナ」は避けて通れないと思いました。連載前に書き溜めていた原稿に手を入れて、新たにマスクを描き加えたところもあります。
最新号(『ビッグコミックオリジナル』3月5日発売号)では店内ではなく外で常連客たちが久しぶりに集まり、次号以降で「めしや」も営業再開させるつもりです。
食事をするシーンも含まれる作品ですから、読者が違和感を覚えるような表現は避けなければいけません。たとえば作中で常連客同士の玉子焼きと赤いウインナーのお裾分けのようなシーンは描きにくい。
いま飲食店の料理人もマスクやフェイスガードをしていますが、マスターは料理する時以外は店内でマスクをつけません。受け答えの表情が分からなくなってしまうので、そこだけはキャラクターを優先しました。
今後の深夜食堂の営業時間ですが、今のままというわけにはいかないでしょう。もう少し早い時間から開けて時短営業などを考えなければいけないかもしれません。夕方から開ければ、これまでとはまた違ったお客さんが店を訪れて、描ける世界が広がるかもしれませんしね。
※週刊ポスト2021年3月19・26日号