新型コロナウイルスのパンデミックから抜け出すため、期待されているのが「ワクチンパスポート」。世界各国では導入が検討され、すでに実用化されている国もあり、今後は世界標準になっていくことだろう。しかし、一方で大きな落とし穴もあり──。
一般向けの新型コロナウイルスのワクチン接種開始が迫ってきた。東京都では、4月2週目から世田谷区と八王子市で高齢者向けのワクチン配布が始まる。4月3週目には足立区や杉並区、町田市など6区4市への配布が続く。集団接種の流れを確認する作業も各地で実施されており、3月6日には福島県相馬市が模擬訓練を行った。
一方、ワクチンの供給量が当初の政府想定より少なくなったことで、接種計画の見直しも相次いでいる。
「4月からかかりつけ医での接種を開始する予定だった愛知県岡崎市の場合、4月に同市に届くのが65才以上の高齢者のたった約1%分のワクチン2箱(約1000人分)になり、高齢者施設の入所者を優先的に接種する計画に転換しました。当初10月がめどだった全住民への接種終了も先送りされるとみられています」(全国紙記者)
海外では「仁義なき戦い」が勃発している。米フロリダ州の接種会場では、34才と44才の女性がかつらや眼鏡で老けて見えるように装い65才以上の高齢者用の列に並んだ。しかし、変装を見抜いた保安官助手に接種を阻止された。そこまでしてワクチンを接種したがるには理由がある。
「感染を防ぐ目的ももちろんありますが、海外ではワクチンを接種しないと周囲からかなり白い目で見られることがある。それだけでなく、海外ではワクチンを打たないと生活が制限されかねないという事情があるんです」(欧州在住ジャーナリスト)
EUは6月にパスポートを発行
その理由が「ワクチンパスポート(ワクチン接種証明書)」だ。国際医療福祉大学病院内科学予防医学センター教授の一石英一郎さんが説明する。
「ワクチンパスポートとは、ワクチンを接種したことを証明する書類などの総称です。そのパスポートを持つ者はコロナに感染する可能性が低く、接触する他者も安心して経済活動などができます。パスポートの提示によって世界各国で営業休止状態が続く飲食業、文化・スポーツ施設、イベント業なども再開でき、ホテルや交通機関、観光業などの活性化につながるとされます。停滞する経済を大きく引き上げるでしょう。
さらに、さまざまな活動にパスポートの提示を義務づけることで、ワクチン接種率が高まることも期待できます。それゆえ、世界各国でパスポート導入の議論が盛んに行われ、一部の国ではすでに制度化されています」