今後30年で巨大地震が70%の確率で発生する。政府はその予測を喧伝し、われわれも危機感を抱いているが、本当の恐怖は想像できていない。“その時”現場はどのような状況に襲われるのか。
よく晴れた○月△日の午後3時過ぎ。コロナ禍が落ち着き、賑わいを取り戻しつつある東京・浅草では、観光客が参拝や買い物を楽しんでいる。だが次の瞬間、緊急地震速報の警告音がスマートフォンから一斉に鳴り響いた。
何もできずに戸惑っていると、真下からドンッと突き上げるような激しい振動に襲われ、人々はその場に座り込んだ。なかにはバランスを崩して倒れ込み、折り重なっている人たちもいる。
飛び交う悲鳴。その声をかき消すように、バキバキと轟音を響かせながら木造家屋が次々に倒壊していく。各所で火の手が上がり、炎はまるで天を突く柱のようだ。ビル街では割れた窓ガラスの破片が上から降りそそぎ、歩行者を容赦なく襲う。
大通りに目を向けると、激しい揺れでハンドルを取られた車があちこちで衝突を起こしている。道路には大きなひび割れが走り陥没しているところもある──。
これは「今後30年以内に70%」の確率で発生するとされている、首都直下地震のシミュレーションだ。首都直下地震は関東南部で繰り返し起きている大地震の総称で、政府は都心南部を震源にマグニチュード(以下、M)7.3の地震が起きた場合、死者2万3000人、経済被害は95兆円にのぼると想定している。京都大学大学院人間・環境学研究科教授の鎌田浩毅さんが語る。
「震度7の地震が直下で起きれば、まず木造家屋が倒れ必ず火事が発生します。大正12年9月に起きた関東大震災では、倒壊した建物の瓦礫に火がついて、竜巻のような“火炎旋風”が起きました。10万人の死者のうち9割は焼死だといわれています。
さらに直下地震は大きな縦揺れのため、部屋の中は一瞬“無重力状態”になります。人間はもちろん、テレビや冷蔵庫、食卓テーブルなどの家具は空中に浮き上がった後、床に叩きつけられます」
何かにしがみついて耐えることは不可能で、火事以前に家具の下敷きになって大けがをしたり、圧死してしまう危険性もあるのだ。
「大正時代とは違い、いま首都圏では3000万人近くが働いているため、膨大な数の“帰宅困難者”が出ます。自宅に帰るまで4~5日かかるケースも想定され、その途中でけがをしたり、疲労困憊で倒れる人も相次ぐでしょう」(鎌田さん)
立ち往生している車やトラック、なんとか自宅へ帰ろうとする人たちで、道路は埋め尽くされる。「押すな!」「やめろ、危ない!」そんな怒声が響くなか、後ろから押された人が倒れ、将棋倒しのように次々に倒れる“群衆なだれ”が起きた。下敷きになった人たちが「痛い」「助けて」と叫ぶ。運悪くいちばん下になってしまった人は、もうぐったりとしていて動かない──最悪の事態を想定しておかなれければいけないのだ。
※女性セブン2021年3月25日号