東日本大震災から10年。あのような悲劇が再び起きることを想像したくはないが、「今後30年以内に70%」の確率で首都直下地震が発生すると予測されている。政府は、都心南部を震源にマグニチュード(以下、M)7.3の地震が起きた場合、死者2万3000人、経済被害は95兆円にのぼると想定している。
さらに、甚大な被害が予想される首都直下地震より恐ろしい巨大地震が間近に迫っている。ユーラシアプレートとフィリピン海プレートの境界線である、南海トラフを震源とする「南海トラフ」地震。M8?9クラスが30年以内に発生する確率は「70~80%」だ。
もし南海トラフ地震が発生したら、どんな事態が起きるのだろうか、シミュレーションした。
△月×日、高知県沖を震源とするM9クラスの地震が発生。近畿地方から四国、九州にかけて震度6~7の大きな揺れを観測し、関東でも震度4の揺れが数分間にわたって続いた。だが、本当の恐怖が襲ってきたのはそれからだ。
防災サイレンがけたたましく鳴り、急遽、地震速報に切り替わったテレビのアナウンサーは「津波が迫っています! すぐに高台に避難してください!」と叫び続けている。
地震発生からわずか8分後。高知県黒潮町では、あんなに穏やかだった海が、真っ黒い巨大な壁になって目前に迫っていた。津波の高さは10階建てのビルと同じ34m。沖合にいた漁船が、まるでオモチャのように次々と波のなかに消えていく。
高台に避難した住民たちの眼下で、津波は堤防を楽々と乗り越え、町のすべての建物をあっという間にのみ込んだ。川を山深くまで遡った津波が引いた後、嘘のように静まり返った海に、ただ瓦礫だけが虚しく浮かんでいた。
「瀬戸内海に面したほかの地域も危険で、現在の平野が海面干拓(海を陸地化すること)でつくられた兵庫県の相生市や赤穂市、岡山県岡山市、広島県の福山市、広島市、山口県下関市など平野部にある都市は水没することが予測されています。大阪の中心街も同様に、地盤が海面干拓でつくられたエリアなので、水没は免れないでしょう」(立命館大学環太平洋文明研究センター特任教授・高橋学さん)