役所広司(65才)が主演を務めた映画『すばらしき世界』が2月11日より公開中だ。ネットの口コミでは、封切り直後から「現代社会の分断や格差、孤立をリアルに浮き上がらせた傑作」「哀しさと可笑しさと優しさの余韻がずっと続く作品」など、熱い感想が多数寄せられている。映画や演劇に詳しいライターの折田侑駿さんは、「役所広司の素晴らしさはもちろんだが、特に注目したいのが元テレビマン・津乃田を演じた仲野太賀」と話す。その理由について、折田さんが解説する。
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映画ランキングでは初登場6位のスタートと、早くから期待の声が多く上がっていた注目作なだけに、やや意外な走り出しとなった映画『すばらしき世界』。ポスターにある、“実在した男をモデルに「社会」と「人間」の今をえぐる問題作。”との謳い文句に足踏みをしている観客もいるのかもしれない。社会派映画としての側面の強い本作は、たしかに気楽に観られる作品ではないだろう。だがこの映画では、私たちの日常にある、“目を背けたくなるような現実”が丹念に描かれており、何かしらの気付きを与えてくれる作品であるのは間違いない。
本作は、佐木隆三によるノンフィクション小説『身分帳』(講談社文庫)を、『ゆれる』(2006年)や『夢売るふたり』(2012年)、『永い言い訳』(2016年)などの映画が国内外で高く評価されてきた西川美和監督(46才)が映画化したもの。日本が誇る名優・役所広司との初タッグとあって、国内のみならず世界が待ち望んだ組み合わせと言っていいだろう。実際、すでにシカゴ国際映画祭にて最優秀演技賞と観客賞を受賞するなどしている。
物語のあらすじはこうだ。13年の刑期を終えた三上正夫(役所)は、彼の身元引受人の弁護士である庄司(橋爪功)やその妻・敦子(梶芽衣子)の助けを借りながら、社会復帰を果たそうと悪戦苦闘する。そんな彼の元へ、一人の元テレビマン・津乃田(仲野太賀)が取材の打診にやって来る。この津乃田は、“前科者の三上が社会復帰を果たし、生き別れた母親と涙ながらに再会する”という感動的なドキュメンタリーを制作しようと目論むテレビ番組のプロデューサー・吉澤(長澤まさみ)の依頼で動いていた。三上の“身分帳”には壮絶な過去が記されているが、実際に会ってみればどこか茶目っ気のある人物。こうして、三上と津乃田の交流が始まる。
一度道を踏み外した者が社会復帰できるのか――。そんなメッセージが込められ、社会派ドラマとしてのシリアスな側面を持つ本作。しかし、それだけではなく表現が幅広い作品でもある。三上が自動車免許の試験に苦戦するシーンはコメディ調ですらあるし、六角精児(58才)が演じるスーパーの店長や、北村有起哉(46才)扮するケースワーカーと三上の間に芽生える“友情”は、微笑ましい気持ちで見つめてしまう。全編に渡って絶妙なエンタメの要素が散りばめられており、シリアスとコメディが両立。観る者の心を掴んで離さない。