ソーシャルディスタンスを守り、飲食店は20時で閉店する──映画を作る者は、そんなリアルな世界を撮るべきなのか? コロナ禍の新たな表現様式について映画監督の溝渕雅幸氏が語った。
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ここ10年ほど取材テーマを「終末期医療」に絞って、ドキュメンタリー映画を撮っています。医師や患者に密着して撮影しますから、作品のなかではコロナ禍の世界も映し出されます。
昨年発表した『結びの島』という映画では、瀬戸内海の山口県周防大島で診療所と介護施設を営む医師・岡原仁志さんにスポットを当てました。
岡原先生の持論は「密なコミュニケーションが医療効果を高める」です。患者やその家族とのハグを習慣にし、愛とユーモア溢れる診察を患者一人ひとりにしています。世の「密を避けよ」と逆行する医療スタイルですが、先生のその信念を脚色することなくありのまま撮影しました。
コロナ禍で医療現場を撮影するハードルは高まっています。映画の撮影を2本控えているのですが、ひとつはご時世的に無理だということで延期されました。
私は一般の方でも「実名でモザイクなし」で出演してもらうことを信条にしているのですが、「コロナなのにそんな取材を受けて」といった批判を気にされてか、なかなか了承してもらえないケースも増えています。それは当然のことだと思いますが、これからも粘り強く取材を重ねていきたいと思っています。
実は私も昨年8月にコロナに感染しました。発症から退院までの18日間を経て、メディアを通じてしか知らなかったことを身をもって理解することができた。今後はこの経験も踏まえながら、コロナ禍における終末期医療を追っていきたいと思っています。
※週刊ポスト2021年3月19・26日号