【書評】『ヨーロッパの都市伝説──歴史と伝承が息づく13話』/片野優、須貝典子・著/祥伝社新書/940円+税
【評者】嵐山光三郎(作家)
ヨーロッパの都市伝説は呪い、怪奇現象、異常殺人事件、幽霊、吸血鬼など多種多様だが、21世紀に明らかになった新事実で検証する。「自殺を誘発する曲」、「火事を招く絵」、「呪いの人形アナベル」は映画化されて評判になった。ポランスキー監督の映画『ローズマリーの赤ちゃん』やフリードキン監督の映画『エクソシスト』でもおなじみの心霊現象、エンフィールド事件。少女が部屋に浮かび、タンスが瞬間移動する。映画『死霊館』が上映されると、世界各地で不幸な事件がおこった。
怪談がフィクションや噂話の域をこえて現実の事件となり、恐怖と不安をひきおこすのが都市という魔界である。
「六五〇人の処女を生贄にした伯爵夫人」にまつわる新事実とはなにか。ミーハー気分がつのって、核心部分に傍線をひいちゃったりして、若いおねえちゃんに講釈したくなる。
「血の伯爵夫人」と呼ばれるエリザベートはコミック『ベルサイユのばら』のモデルですからね。大量殺人が行なわれたチェイテ城では若い娘を拷問し、処女の生き血をバスタブに入れて入浴した。史上稀にみる凶悪事件の真相はどうなのか、を現場検証してデータが豊富。エリザベートを題材にした作品は、小説、ノンフィクション、コミック、映画、ゲーム、ポルノにまで多岐にわたり、事実と創作が混在している。
一八八八年、ロンドンで娼婦がつぎつぎと殺された凄惨な連続殺人「切り裂きジャック」事件は迷宮入りとなった。ヒッチコック監督の映画『下宿人』となり、いまもなお研究家たちをひきつける。犯人が署名入りの殺人予告手紙を新聞社に送りつけた元祖「劇場型事件」で、メスのような刃物で内臓を切り刻んだ猟奇犯罪であった。
歴史の闇をひきずるヨーロッパの都市伝説(全13話)を現地取材で発掘した力作。読み物としてわかりやすく執筆したのはヨーロッパで三十年暮らした謎の男女二名(おそらくパートナー)で、これも都市伝説のひとつか。
※週刊ポスト2021年3月19・26日号