コロナ禍はフィクションの世界にも影響を与えた。漫画『相談役 島耕作』で主人公の島耕作が新型コロナウイルスに感染し、話題になった。しかし、現実世界をどこまでフィクションの世界に反映させるかは、難しい問題だ。リアルな世界を描くべきか、はたまた創作は自由であるべきか。コロナ禍の新たな表現様式について『モテキ』などを手掛けた映画監督・演出家の大根仁氏が語った。
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フィクションの描き方は原則として自由であるべきだと考えています。たとえ現在が舞台でも、必ずコロナの影響を表現する必要があるとは思わない。
ただ、リアリティを重視する作品の場合は別。昨年10月から放送した『共演NG』(テレビ東京系)は、「2020年現在のテレビ業界」が舞台だったので、視聴者に“現実”を体感してもらうためには無視するわけにはいきませんでした。
コロナを取り入れたことで、かえってドラマの表現に“幅”を出すこともできました。
『共演NG』の第2話では、俳優の遠山(中井貴一)と元恋人の女優・大園(鈴木京香)のキスシーンがあるのですが、それをなんとか避けたい遠山が「キスは濃厚接触だから当然NGでしょ」とプロデューサーに詰め寄ると、「テレ東のガイドラインでは、キスシーンは本番1回ならOKです」と、撮影ガイドラインを盾に言い返される。
他にも、電話をかけようとしたらフェイスシールドが邪魔になってゴミ箱に投げ捨てるとか(笑い)。新しいコメディ要素や風刺を盛り込むことができましたね。
特に上手くいったのが、最終回で大園と遠山が成田空港で別れるシーン。2人が座る空港のイスがソーシャルディスタンスのため1席おきで、その微妙な距離感が、最終的に交わることのない元恋人同士の関係性をメタファー(隠喩)として表現できた。コロナ禍がなければ出ない発想でしたね。
僕の場合、コロナが作品の質に悪影響を与えることはなかったですね。困ったことと言えば、いまはどの現場でもケータリングやお菓子コーナーがなくなったことくらいですね(笑い)。
※週刊ポスト2021年3月19・26日号