初日から2連勝の横綱が3日目から休場するなど、寡聞にして知らない。春場所の白鵬は、4場所連続の休場から再起をかけて土俵に上がったはずだった。休場の理由は「右ひざの状態が悪く、近く手術を受ける」と発表されたが、そこまでの状態なら、そもそも出場できなかったのではないか。師匠の宮城野親方(元前頭・竹葉山)は、「本人は7月場所ですべてをかけると話している」と述べ、今場所と5月場所は「お休み」と宣言した。
不可解にも見える休場によって、角界関係者には波紋が広がっている。白鵬の休場が決まると芝田山広報部長(元横綱・大乃国)は、緊急事態宣言により開催が留保されていた春場所後の横綱審議委員会について、会合を開くと明言。横審メンバーである山内昌之氏(東大名誉教授)は白鵬側の判断を問題視し、「今場所中に進退を決してほしい」とコメントしたことが報じられた。
横綱は休場しても番付が下がらず、土俵に上がらなくても300万円の月給がある。1場所延命すれば2か月で600万円の収入となり、白鵬が7月場所まで「2場所延命」となるなら、休んだ4か月間の収入は1200万円にのぼる。それだけ国技の最高位には価値があるということだが、休場が続けば批判を受けるのは当然という話にもなる。
歴代1位の優勝44回という大横綱が、丸1年も休場続きになっているのはなぜなのか。初日に前の場所で優勝した大栄翔を下したように、まだまだ実力は抜きん出ているとはいえ、36歳という年齢と十分すぎる実績を考えれば、休み続けて批判を浴びるより、名誉ある勇退を決断してもおかしくないが、白鵬の場合はそうもいかない事情がある。
「記録のうえでは文句なしの白鵬だが、今すぐに引退すれば将来にわたって協会に残れるか微妙です。本来なら、著しい功績のあった横綱に与えられる一代年寄という制度で、白鵬という現役名のまま親方としての地位を保証されてもおかしくないが(過去に大鵬、北の湖、千代の富士、貴乃花がいる。千代の富士は辞退した)、品行に問題があるとしてたびたび批判される白鵬には、協会は一代年寄りの資格を与えないと見られてきた。だったら自分で年寄株(年寄名跡)を手に入れなければならないが、その見通しが立たなかったのです。横綱に限り引退後5年間は年寄株なしでも現役名で親方として協会に残れるが、その後の保証がないなら、できるだけ引退を引き延ばして、その間に年寄株を入手したいのでしょう」(相撲記者)
2014年に親方の定年が65歳から70歳になったことで、退職するはずだった親方がさら5年間長く在職することになり、年寄株の「空き」はほとんど出なくなっている。今年はじめまで、唯一空いていたのが2019年に急死した東関親方(元前頭・潮丸)を継いだ元小結・高見盛がそれまで持っていた「振分」だったが、これは白鵬の天敵である八角理事長(元横綱・北勝海)が所属する高砂一門の株なので、白鵬に渡る可能性はなかった。
「白鵬が所属する宮城野部屋は弱小の伊勢ヶ濱一門で、株の空きは当分出ない。師匠の宮城野親方も70歳までの再雇用を希望しているから(現在63歳)、すぐに白鵬に禅譲はできない。白鵬と手の合う(仲の良い)朝日山親方(元関脇・琴錦)が八方手を尽くしてきたが、株を手当てできなかった」(若手親方)
白鵬がひざの故障を抱えながら出場に踏み切った背景に、年寄株の手配ができない事情があったとするなら、「やっぱりやめた」と急に休場した裏も、やはり年寄株の問題だった可能性がある。場所直前、複数のスポーツ紙が「白鵬が年寄株『間垣』を取得へ」という観測記事を掲載した。それが事実なら、白鵬の念願が叶うことになり、無理して現役続行する動機のひとつがなくなるのである。