3月19日に開幕する第93回選抜高校野球大会の開会式は、新型コロナウイルスの感染予防として、初日に登場する神戸国際大附(兵庫)、北海(北海道)、明徳義塾(高知)、仙台育英(宮城)、健大高崎(群馬)、下関国際(山口)の6校だけが参加する。その中で、選手宣誓を務めるのは仙台育英の島貫丞(じょう)主将だ。異例の開会式で大役を担う島貫主将は、どうやって原稿を練り上げたのか。ノンフィクションライター・柳川悠二氏がレポートする。
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例年、組み合わせ抽選は選抜開幕の1週間前に行われる。しかし、史上初のオンライン開催となった今回は、開幕の1か月近く前の2月23日に行われたことで、宣誓文を考える時間は十分にあった。対外試合が解禁された3月6日の段階で、ほぼできあがっていたという。仙台育英の須江航監督が明かす。
「まずは全体のミーティングで、宣誓文にどんなフレーズ、ワードが欲しいか、島貫と共に部員たちにヒアリングしました。その後、私の方から島貫に対して、『去年、コロナによって甲子園大会がなくなったことはどう思っている?』とか、『今年は東日本大震災から10年という節目の年になる。時の流れの速さをあなたはどう考えている?』などと質問しましたね。また、コロナにまつわる政治の記事、医療従事者の記事などを渡して感想を求め、宣誓文に込めたい想いを書き出させました」
10年前の3月11日、当時、仙台育英の系列である秀光中学の野球部を指揮していた須江監督も仙台で被災し、1か月近く風呂に入ることもできないまま復興に向けて駆け回り、実家が遠方の生徒を自宅まで送り届けるなどしていた。そんな時期に耳にしたのが、第83回選抜の開会式における創志学園(岡山)・野山慎介主将(当時)のあの選手宣誓だった。
《人は、仲間に支えられることで大きな困難を乗り越えることができると信じています。私たちに今、できること。それはこの大会を、精いっぱい元気を出して戦うことです。「がんばろう! 日本」。生かされている命に感謝し、全身全霊で、正々堂々とプレーすることを誓います》(一部抜粋)
須江監督が続ける。
「あの選手宣誓は私の心にも残っているし、島貫にも高校野球の先輩の宣誓文から10年という時の流れを感じ取って欲しかった」