夫婦でどちらかが先に死ぬのなら、「自分が先に死にたい」という女性が50%なのに対し、男性は78%に上るという。その最も多い理由は、「パートナーを失う悲しみに耐えられない」から。実際に妻に先立たれた夫たちは、悲しみとどう向き合ってきたのだろうか──。
「妻の文美とは10才差。私の方が当然、先に逝くものと考え、終活を始めようとした矢先のことでした」
そう話すのは、俳優の山崎辰三郎さん(72才)。妻の今村文美さん(享年61)も俳優で、3年かけて全国を巡演した『柳橋物語』が、2019年12月14日に岩手・盛岡で千秋楽を迎えて帰京。その6日後に、家庭内の不慮の事故で、突然、亡くなった。
二人は前進座附属の養成所の3期生と8期生。巡演で一緒になったのをきっかけにつきあい始めて結婚した。
「ちょうど3年前、私が70才になったのを機に、エンディングノートを準備し始めたんです。嫁いだ娘が近くにいますが、最後は女房ひとりの生活になるから、『そのつもりでいた方がいいよ』などと、話をしていた。お墓に関しても、私の実家のお墓は徳島にあり、本来ならそこに入るのですが、女房は『東京の実家の墓に入れてほしい』と言っていたんです」(山崎さん・以下同)
義兄と相談して希望を叶え、徳島には分骨の形をとった。「雑談レベルでも自分の意思を話してくれていたことで、希望に添うことができました」
家事全般が得意な山崎さんは、日常生活で困ることはない。だが、食事中に芝居のことを話す相手がいないなど、妻の存在がなくなった“ぽっかり感”は、思った以上に大きい。昨年はコロナの影響で仕事の予定がなくなり、自宅で何か月もひとりで過ごしたが、さすがに堪えたという。
「寅さんの映画や韓国ドラマのDVDを、1日に何時間も集中して見ていました。『マイ・ディア・ミスター~私のおじさん~』を見て、女房が亡くなっても号泣してないのに、なんでドラマを見て滂沱の涙を流しているんだって思ったり……。なんでもいいんです。のめり込めるものがあれば、考え込まなくて済みますから」
文美さんに心残りがあったとすれば、「年金がもらえなかったこと」だと山崎さんは笑う。