あまり深く考えずに周囲の人の言うとおりに行動してしまう──ラクだという理由でそんな生活を送る人も少なくはないはず。でも、その“周囲の人”って本当に従っても大丈夫な人ですか? それってもしかして洗脳なのでは……? “洗脳”の末に悲劇に至った事件もあったが、そこまでではないとしても、身の回りにはちょっとした“洗脳案件”が潜んでいるかもしれない。そこで、「こんな人に従っていたなんて……」というエピソードを集めてみました。
呉服店の跡取り娘の洗脳がとけた
地方都市の呉服店の3人姉妹の長女。私ほど、物心ついたときから強烈な洗脳を受けた人もそういないと思う。日々のお菓子の取り分けから進学まで、「跡取り娘だから」「総領娘だから」と親も親戚も日常のあらゆる場面で口にする。そうすると、決められたレールを歩いているのに、自分で選んだと思い込むようになるのよ。
たとえば結婚。長男とは結婚できないと決めつけて、高校生の頃から好きな男子ができると、「次男か三男でありますように」って、いま思えばバカみたい。バカみたいといえば、私が婚期を逃がしてあわてていた昭和の終わり、実家の呉服店が倒産したの。妹たちは高級呉服を持ってさっさと好きな人と結婚したけど、私だけが売れ残り。
それだけじゃない。残ったものは、老いた両親と負債と、売るに売れない山と田んぼ。要介護3の父親は「おれはお前を洗脳した覚えはない。おれが父親から洗脳されたんだ」と言い張るの。そもそも“長子相続”の教祖って、誰だ?
(あだ名は“ご息女様”の64才)
スーパーマーケットNの転落
5年前まで、ご近所の主婦が集まると、スーパーNの特売の話。朝市の野菜が安くて新鮮だし、お総菜も飛ぶように売れていたのよ。
店長の40代男性のYさんの笑顔が抜群だったのと、コロコロ鈴を転がすような声。何かに操られているように店長に引き寄せられて、余計なものまで買っちゃう。おかしいな?とハッキリ思ったのは、子供にキャベツを買いに行かせたとき。なんと芯が黒ずんでいたのよ。
「これ、古いよね?」と、その場にいた仲よしママに言ったら、「でも、Nで買ったんでしょ? あそこが古い野菜、売るワケないじゃない」と言うんだわ。目の前のしなびたキャベツを見ているのに、見えてないのよ。
そうこうするうちに店長のYさんもちょっと老けて、笑うと見える犬歯が1本抜けて、若い頃の面影がすっかりなくなっちゃった。そうしたら品物もよく見えなくなったのね。昔の半分も客が集まらないもの。
“洗脳”っていうには大げさだけど、人に影響されがちな私は、時々寂れたスーパーNで買い物をして自分を戒めているの。
(Yさんの元信奉者は70才)
「私は洗脳された」って、ふざけるなっ!!
ママ友だったE子さん(40才)は、ちょっとしたきっかけで仲よくなると、すぐにその人にベッタリに。最初はどこかで買ってきたお総菜を手土産にして、人の家に上がり込むんだけど、そこから何時間も茶の間に座り込んで愚痴を言い続ける。
「もう私、どうしたらいいかわからない。どうしよう」と泣きながら言うから、それらしいアドバイスをしたが最後、毎日毎日、「どうしたらいい?」とやって来る。
どんなにおせっかいな私でも限度があるって。あるとき、「私、もう力になれないよ」とやんわりおつきあいを断ったら、どうしたと思う? 「私は〇〇さんに洗脳されていた」ってママ友に言いふらしたのよ。「私は彼女の言うがままに化粧品や洋服だって買ったのに、ひどいッ」って。どっちも、「どこで買った?」と聞かれたから教えただけなのに。
まあ、彼女の友達はもういないから、どうでもいいんだけどね。
(お人よし子は47才)
取材・文/野原広子
※女性セブン2021年4月1日号