芸能

真打昇進の桂宮治 爆笑落語とドラマティックな大ネタで花咲く

「宮治には大ネタ人情噺が似合う」と確信したワケとは?(イラスト/三遊亭兼好)

「宮治には大ネタ人情噺が似合う」と確信したワケとは?(イラスト/三遊亭兼好)

 音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接してきた。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、2月に5人抜きの抜擢で真打昇進した桂宮治の独演会について、「大ネタ人情噺が似合う」と確信した理由ついてお届けする。

 * * *
 この2月、桂宮治が落語芸術協会で5人抜きの抜擢で単独真打昇進を果たした。二ツ目として最後の高座は2月3日に国立演芸場で行なわれた独演会だったが、図らずもこの会は真打としての宮治が進むべき道を示す内容になっていた。

 一席目は『ちりとてちん2021 Ver』。時代設定をコロナ禍の現代にした改作で、仲間たちと外で飲もうとしていた旦那が緊急事態宣言を受けて自粛、家飲みに変更したものの、取り寄せた料理が多すぎたので、愛想のいいタケさんを呼んで御馳走する。振る舞われたのは“スガのステーキ”や“イシバのフグ”等。生意気なトラさんが旦那の挑発に乗り、腐った豆腐を食べて悶絶寸前となる派手な描写が爆笑を生む。まさに“爆笑派”宮治の真骨頂だ。

 二席目は『鼠穴』。一転してシリアスな大ネタである。

 10年ぶりに兄の許を訪れた竹次郎、兄の言い分を聞いて和解し、酒を酌み交わす。「お前の蔵が焼けたらこの身代くれてやる」とまで言われて泊まったが、夜中に火事が出てすべてを失い、女房も病の床に。一人娘を連れて再び兄を訪れるが、兄は態度を一変、金は貸せないと突き放し、「酒の上の約束を真に受けるようだからダメなんだ。娘なんか連れてきてお涙頂戴か?」と嘲笑うと、娘に「吉原に身を売れ」と勧める。だが娘を売った五十両は盗まれてしまい、それを聞いた兄は「人間そこまで落ちたくねえな、死んじまえ!」と罵声を浴びせる……。

 後半の展開は立川笑二考案の型を受け継いだものだが、宮治は迫真の演技で肉付けし、聴き手を引き込んで離さない。首を括ってドンデン返しとなり、自分の悪役ぶりを竹次郎から聞いた兄のリアクションに場内からドッと笑いが起こる。

 ここからが宮治オリジナル。兄は「夢は逆夢、お前の店は栄えるぞ」と弟を励まし、「もう寝ろ」と言い残して便所に向かうと、ポツリと独り言。「正夢になったら面白ぇな」。この演目の「10年前、兄は本当に弟を思って三文貸したのか」という“心の闇”に正面から対峙した宮治の、痛烈な回答がここにある。

関連キーワード

関連記事

トピックス

田中圭
《田中圭が永野芽郁を招き入れた“別宅”》奥さんや子どもに迷惑かけられない…深酒後は元タレント妻に配慮して自宅回避の“家庭事情”
NEWSポストセブン
田村瑠奈被告(中央)
《父・修被告よりわずかに軽い判決》母・浩子被告が浮かべていた“アルカイックスマイル”…札幌地裁は「執行猶予が妥当」【ススキノ事件公判】
NEWSポストセブン
ラッパーとして活動する時期も(YouTubeより。現在は削除済み)
《川崎ストーカー死体遺棄事件》警察の対応に高まる批判 Googleマップに「臨港クズ警察署」、署の前で抗議の声があがり、機動隊が待機する事態に
NEWSポストセブン
ニセコアンヌプリは世界的なスキー場のある山としても知られている(時事通信フォト)
《じわじわ広がる中国バブル崩壊》建設費用踏み倒し、訪日観光客大量キャンセルに「泣くしかない」人たち「日本の話なんかどうでもいいと言われて唖然とした」
NEWSポストセブン
北海道札幌市にある建設会社「花井組」SNSでは社長が従業員に暴力を振るう動画が拡散されている(HPより、現在は削除済み)
《暴力動画拡散の花井組》 上半身裸で入れ墨を見せつけ、アウトロー漫画のLINEスタンプ…元従業員が明かした「ヤクザに強烈な憧れがある」 加害社長の素顔
NEWSポストセブン
筑波大学の入学式に出席された悠仁さま(撮影/JMPA)
悠仁さま入学から1か月、筑波大学で起こった変化 「棟に入るには学生証の提示」、出入りする関係業者にも「名札の装着、華美な服装は避けるよう指示」との証言
週刊ポスト
藤井聡太名人(時事通信フォト)
藤井聡太七冠が名人戦第2局で「AI評価値99%」から詰み筋ではない“守りの一手”を指した理由とは
NEWSポストセブン
趣里と父親である水谷豊
《趣里が結婚発表へ》父の水谷豊は“一切干渉しない”スタンス、愛情溢れる娘と設立した「新会社」の存在
NEWSポストセブン
米利休氏のTikTok「保証年収15万円」
東大卒でも〈年収15万円〉…廃業寸前ギリギリ米農家のリアルとは《寄せられた「月収ではなくて?」「もっとマシなウソをつけ」の声に反論》
NEWSポストセブン
SNS上で「ドバイ案件」が大騒動になっている(時事通信フォト)
《ドバイ“ヤギ案件”騒動の背景》美女や関係者が証言する「砂漠のテントで女性10人と性的パーティー」「5万米ドルで歯を抜かれたり、殴られたり」
NEWSポストセブン
“赤西軍団”と呼ばれる同年代グループ(2024年10月撮影)
《赤西仁と広瀬アリスの交際》2人を結びつけた“軍団”の結束「飲み友の山田孝之、松本潤が共通の知人」出会って3か月でペアリングの意気投合ぶり
NEWSポストセブン
田村容疑者のSNSのカバー画像
《目玉が入ったビンへの言葉がカギに》田村瑠奈の母・浩子被告、眼球見せられ「すごいね。」に有罪判決、裁判長が諭した“母親としての在り方”【ススキノ事件公判】
NEWSポストセブン