スポーツ

センバツ出場 大崎・清水監督「高校球界追放」からの出直し秘話

選手を見守る清水央彦監督

選手を見守る清水央彦監督

 3月19日に開幕したセンバツ高校野球。コロナ禍により昨年は春のセンバツが中止となり、夏もセンバツ出場予定校による「交流試合」のみだった。2019年夏以来となる聖地でのトーナメントに臨む32校のなかで異彩を放つのが、長崎の“過疎の島”から出場を決めた県立大崎高校だ。ノンフィクションライター・柳川悠二氏がレポートする。(文中敬称略)

 * * *
 長崎県西部に浮かぶ人口5000人の大島(西海市)を訪ねたのは、2月の暖かい最終日曜日だった。その日、第93回選抜高校野球大会への出場が決まっている県立大崎高校のナインのために、自治会の婦人部がカレーの炊き出しを行っていた。
 
 ご飯の上には県産豚の分厚いトンカツと、キリスト教に縁ある長崎らしく十字架の形をしたポテトがのっていた。おかわりに走るナインを眺めながら、監督の清水央彦は私にこう打ち明けた。

「(前任校で)終身刑のような扱いを受けた私をこの町の人々は歓迎してくれた。それが何より嬉しかったんですよね。私は野球の指導ぐらいしか役に立てない人間です。そんな私を頼って、この島までわざわざ来てくれる球児がいるなんて、男冥利に尽きるじゃないですか。私はその責任感と義務感だけで、監督業をやっています」

 清水は、いわばすねにふたつの傷を持つ野球人だ。2006年春の選抜で準優勝した同じ長崎の県立清峰でコーチ、部長を歴任。とりわけデータ分析と投手育成に秀でた名参謀として知られていた。ところが、現・広島の今村猛らが選抜を制する前年、監督に就任したばかりの2008年秋に、生徒に暴力を振るったことが発覚し、学校を追われた。その後、監督として佐世保実業を2度、夏の甲子園に導くも、今度は部員同士の暴力行為を学校に虚偽報告したとして、日本学生野球協会から「無期謹慎」の処分が下る。事実とは異なると不服申し立てをした結果、2年半の有期の謹慎となったが、やはり学校を去ることに。これが清水のいう「終身刑」の中身だ。

 高校野球の世界に居場所を失った清水に救いの手をさしのべたのが、清水の指導力を買っていた当時の西海市長だった。清水は市職員として教育委員会で働き、2018年春から大崎高校の監督となることが決まった。
 
 当時の部員はわずか5人。しかし、前年から清水が西海市や佐世保市の中学生に声をかけ、就任と同時に選手が大島に集まり、西海市のバックアップを受けて寮も完成した。多くの誤解を受け、“暴力指導者”のレッテルを貼られながら、1年目から多くの選手が集まったのは、それだけ清水の人望と、指導力が長崎の野球関係者に認知されていたからだろう。

関連記事

トピックス

百合子さまは残された3人の仲を最後まで気にかけられたという(2023年6月、東京・港区)
百合子さま逝去で“三笠宮家当主”をめぐる議論再燃か 喪主を務める彬子さまと母・信子さまと間には深い溝
女性セブン
氷川きよしが紅白に出場するのは24回目(産経新聞社)
「胸中の先生と常に一緒なのです」氷川きよしが初めて告白した“幼少期のいじめ体験”と“池田大作氏一周忌への思い”
女性セブン
公益通報されていた世耕弘成・前党参院幹事長(時事通信フォト)
【スクープ】世耕弘成氏、自らが理事長を務める近畿大学で公益通報されていた 教職員組合が「大学を自身の政治活動に利用、私物化している」と告発
週刊ポスト
多くのドラマや映画で活躍する俳優の菅田将暉
菅田将暉の七光りやコネではない!「けんと」「新樹」弟2人が快進撃を見せる必然
NEWSポストセブン
阪神西宮駅前の演説もすさまじい人だかりだった(11月4日)
「立花さんのYouTubeでテレビのウソがわかった」「メディアは一切信用しない」兵庫県知事選、斎藤元彦氏の応援団に“1か月密着取材” 見えてきた勝利の背景
週刊ポスト
田村瑠奈被告(右)と父の修被告
「ハイターで指紋は消せる?」田村瑠奈被告(30)の父が公判で語った「漂白剤の使い道」【ススキノ首切断事件裁判】
週刊ポスト
10月には10年ぶりとなるオリジナルアルバム『Precious Days』をリリースした竹内まりや
《結婚42周年》竹内まりや、夫・山下達郎とのあまりにも深い絆 「結婚は今世で12回目」夫婦の結びつきは“魂レベル”
女性セブン
騒動の発端となっているイギリス人女性(SNSより)
「父親と息子の両方と…」「タダで行為できます」で世界を騒がすイギリス人女性(25)の生い立ち 過激配信をサポートする元夫の存在
NEWSポストセブン
九州場所
九州場所「溜席の着物美人」の次は「浴衣地ワンピース女性」が続々 「四股名の入った服は応援タオル代わりになる」と桟敷で他にも2人が着用していた
NEWSポストセブン
初のフレンチコースの販売を開始した「ガスト」
《ガスト初のフレンチコースを販売》匿名の現役スタッフが明かした現場の混乱「やることは増えたが、時給は変わらず…」「土日の混雑が心配」
NEWSポストセブン
歌舞伎俳優の中村芝翫と嫁の三田寛子(右写真/産経新聞社)
《中村芝翫が約900日ぶりに自宅に戻る》三田寛子、“夫の愛人”とのバトルに勝利 芝翫は“未練たらたら”でも松竹の激怒が決定打に
女性セブン
「週刊ポスト」本日発売! 小沢一郎が吠えた「最後の政権交代を実現する」ほか
「週刊ポスト」本日発売! 小沢一郎が吠えた「最後の政権交代を実現する」ほか
NEWSポストセブン