菅義偉・首相は1都3県の緊急事態宣言を解除し、表面上は「コロナ第3波は収束した」かのような解放感が広がった。解除初日の羽田空港には、春休みを楽しもうとスーツケースを携えた旅行者が殺到し、宣言中に比べて3倍近い人でごった返した。政府は医療支援や感染防止策、休業支援が不十分だという声をほとんど無視して宣言解除を断行しただけだから、近いうちに「第4波」に火が付くことは間違いないだろう。
東京都では直近の2週間、新規感染者が増え続けており、すでに第4波の兆しが見えている。理由は主に2つ考えられる。ひとつは都民の「自粛慣れ」「自粛疲れ」で、繁華街の人出はじわじわと増え続けていた。上記のように宣言解除で人心は一気に緩んでいるから、今後は感染リスクがさらに高まるだろう。もうひとつの理由は変異株ウイルスである。東京都は、医療崩壊を恐れているものと見えて、あえて新規感染者にどれくらい変異株感染者がいるかを大規模には調査していない。しかし、積極的に調べている兵庫県などではすでに半数以上が変異株に感染しており、首都圏でも埼玉県や神奈川県は東京より多くの感染者が見つかっている。東京だけ変異株がないなどということは考えられないから、このところの感染者増加は、感染力の強い変異株が蔓延していることの証拠だろう。
東京都の感染者は宣言解除直前は1日300人台の日が多かったが、これは第3波が始まった昨年11月中旬とほぼ同じ水準だ。そこから約1か月で新規感染者は800人台まで増加し、今年1月には2500人に達した(1月7日)。その後は2か月半の緊急事態宣言によって今の水準まで下がったわけだが、すでに底を打って上昇に転じているのだから、どんなに楽観的なシナリオを描いても、これから第3波と同じ経過をたどることを覚悟しなければならない。変異株の感染力を考慮すれば、もっと増加ペースは早まる可能性が高い。
日本のワクチン接種は先進国で最も遅れている。これまでに接種を受けたのは医療従事者55万人程度にすぎず、4段階の1段目である「医療従事者480万人」の接種さえ、まだ1割強というありさまなのだ。2段目の「高齢者3600万人」の接種が始まるのが4月12日の予定だが、その時点では東京は「第4波」に突入して1日の新規感染者は再び1000人超になっているかもしれない。
ワクチンの輸入と配布は予定よりさらに遅れるおそれがある。これまで国内に到着したワクチンは230万回分(115万人分)しかなく、医療従事者への接種さえ滞っているのはワクチンそのものがないからである。これで本当に4月から高齢者接種が始められるのかははなはだ疑問がある。しかも政府の計画では、4月4週目までに各自治体に発送する高齢者用のワクチンは110万回分(55万人分)しか決まっていない。これは高齢者の1.5%分だから、おそらく4月末の時点でも、ほぼすべての高齢者が未接種のまま放置されていることになる。そこに第3波を上回る可能性が高い第4波のピークが重なれば、今度こそ医療崩壊と大量の死者を出すことは避けられない。