「こっちの氷ともしっかり対話できたと思いますし、自分が目指しているいい演技を毎日1つずつ重ねていって、グラデーションのようによくなっていってくれればなと思います」
3月24日からスウェーデン・ストックホルムで始まった世界選手権の公式練習(22日)を終えた羽生結弦(26才)は、スッキリとした表情で語った。多くの苦悩を乗り越え、コロナ禍の全日本選手権で金メダルを獲得し自信をつけた羽生は、3度目の世界選手権制覇となるのか──。
羽生選手の最大のライバルとなるのが、米国のネイサン・チェン選手(21才)だ。2人の初対決は4シーズン前に遡る。2016年11月のNHK杯、12月のGPファイナルでは羽生選手が優勝し、チェン選手はいずれも2位。羽生選手が2014年ソチ五輪王者の貫禄を見せつけた。
しかし、2017年2月に四大陸選手権でチェン選手が優勝してからは、一進一退。2018年の平昌五輪では羽生選手が見事に五輪連覇を果たしたが、2019年3月の世界選手権と12月のGPファイナルではチェン選手が勝ち、羽生選手は2位に甘んじた。フィギュアスケート解説者の佐野稔さんが語る。
「今回も、2人の優勝争いになるのは間違いない。近年まれに見る高レベルの戦いになることは確実。とにかくミスをしないことが大切で、小さなミスが勝敗を分けることになるでしょう」
もし羽生選手とチェン選手がともにノーミスだった場合、どちらが有利なのか。
「4回転ルッツや4回転フリップなど、チェン選手の方が難易度の高いジャンプを持っているので、計算上はチェン選手の方が有利です。一方、羽生選手の全日本選手権を見ると、ジャンプの難易度よりも完成度で勝負し、高い評価を得ていました。私は今回も同じスタイルでいく方がいいのではないかと思っています。
さらに今回の世界選手権は、来年2月に迫った北京五輪を占う重要な一戦。勝った方がグッと優位に立ち、北京五輪の優勝候補筆頭になる」(佐野さん)
チェン選手に勝つために、羽生選手が世界選手権で4回転アクセルに挑戦する可能性はあるのか。
「今回は挑戦しないと思います。4回転アクセルは足への負担も大きく、けがというリスクがどうしてもついてまわる。無理せずにノーミスの演技に集中するのでは。ショートプログラムでリードし、競り合う形でチェン選手にプレッシャーをかけられれば、4回転アクセルなしでも羽生選手が勝つチャンスは充分にある。面白い戦いになると思いますよ」(折山さん)
ストックホルムに到着した翌22日、早稲田大学が昨年9月に卒業した羽生選手に「小野梓記念賞」を贈ることを発表した。大隈重信とともに早大創設に尽力した小野梓を顕彰して1958年に制定されたもので、早大における「学生最高名誉賞」だという。母校からの名誉と、オーサーとの再会という追い風を受け、羽生選手が北京五輪の試金石となる戦いに挑む。
※女性セブン2021年4月8日号