人生の最後のステージでどんな生活をしていたいかは人それぞれ。最近では、必要なものだけ残してミニマルな老後を目指す人も増えている。多くの高齢者や、高齢の親を持つ人たちにとって、「運転免許証を返納するか、しないか」は深刻なテーマだ。高齢ドライバーによる重大事故も増えている一方で、若い頃から慣れ親しんだ運転や愛車と決別できるのか、高齢者だからこそドア・トゥ・ドアの自家用車利用は便利なのではないか、といった様々な思いが巡るだろう。
コメディアンの大村崑氏(89)はクルマ好きで知られる。外車そのものが珍しかった若い頃に、真っ白なベンツを颯爽と乗りこなす姿にあこがれた後輩も多かったという。しかし、2019年11月、運転免許証の更新のタイミングで自主返納した。『週刊ポスト』(3月29日発売号)でその経緯を語った大村氏に、改めてクルマ愛と返納したのちの心境を聞いた。
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若い頃からクルマが好きで、20代で運転免許証を取得しました。当時は役者仲間でも持っているのは珍しかったですね。26歳でコメディ番組のレギュラーを持って、そのスポンサーがダイハツだったから、佐々やん(佐々十郎氏)とミゼットの生CMをやったりして、クルマへの興味が深くなっていったんです。
当時は売れっ子でしたが、テレビは生放送だし、映画も並行していくつもの作品を作っていたので寝る時間もないほど忙しかった。お世話になったダイハツは乗用車を作ってなかったから、白のベンツを買いました。最高級車だったのですが、これは販売店の担当が、「欲しいと思うものを買ったほうがいいですよ。信号待ちで、もし自分が欲しかった車種が隣にとまったら悔しい思いをする。そうすると自分のクルマを好きになれませんよ」と説得されて買ってしまったんです(笑)。でも、そうやって思い切って買ったクルマだったから自慢でした。自分で洗車したりワックスかけたりして大事にしましたね。傷ひとつなかったし、自分の子供みたいに思っていました。
仕事では運転手を雇っていましたが、プライベートでは自分でハンドルを握りました。家族を乗せて日本海や北陸の温泉にも行きました。顔が知られていることもあったから、繁華街に食事や映画で出かけるときも自分で運転しました。運転には自信がありましたね。