【書評】『白木蓮はきれいに散らない』/オカヤイヅミ/小学館/1320円
【評者】山脇麻生(漫画プレゼンター)
未曾有の高齢化社会を迎えようとしている日本において、中年や老人を主人公に据えたマンガ作品の隆盛が目覚ましい。デビュー10周年に際し、“たまたま”同時発売となるオカヤイヅミの新刊『いいとしを』も70代と40代の父息子が主人公だし、ここで紹介する本作には50代女性3人の人生の諸相が描かれる。
白露女子大学付属高校2年3組で同級生だった3人のもとに、40年間、顔を見ていなかった新倉ヒロミの死を知らせる電話が入った。白蓮荘というアパートを経営していたヒロミは孤独死しており、遺言には3人にアパートを譲るとある。しかも、白蓮荘には笠原ショウという大学生が住んでおり、せめて彼が卒業するまではアパートをそのままにしてやってほしいとのオマケつきで……。
久々に顔を合わせたキャリアウーマンの原田サトエ、専業主婦の遠山マリ、雑貨店オーナーの更科サヨ。ある時期、毎日同じ場所に通い、同じことを学んだ彼女たちだが、いま居る場所はそれぞれ違う。介護施設にいるサトエの母はいまだに娘を一人前扱いせず、マリの家族は料理や洗濯をしてもらうことが当たり前になっており、サヨは大恋愛の末に結婚した相手と離婚調停中だ。
著者は、人生の折り返し地点を過ぎた女性が社会に置かれうるさまざまな立場を描き分けながら、彼女たちが直面している「しんどい現実」をも描く。かといって、その日常が苦悩に満ちているかというとそうではない。ヒロミとショウの仲を邪推したり、スーパー銭湯でビールを飲んだりと何だか楽しそう。ささやかな楽しみや希望を胸に、現実と折り合いをつける様が愛おしい。
本作の根底には、「なぜヒロミは、40年間縁のなかった3人に遺言を残したか」という大きな疑問が横たわっている。答えのヒントは物語後半にある。ここでは詳しく触れないが、何十年も前の出来事が不意をついて立ち現れ、影響を及ぼそうとしてくるのだから、人生ってやつはホント侮れない。
「おひとりさま」だった同級生の死に直面し、思い出話を緩衝材に頻繁に顔を合わせるようになった3人は、極めて主観的な孤独や幸せについても思いを巡らせてゆく。著者はここで、ややもすると「みじめ」「悲惨」と形容されがちな「孤独死」に鮮やかな色をつけている。生者、死者の区別なくフラットに投げかけられたその視線に温かな余韻が続き、何だか気持ちが整った。
タイトルにもなっている白木蓮は、春になると芳香を放つ上品な花を咲かせるが、風や霜に弱く、美しい白はすぐ褐色に変化してしまうという。けして散り際が美しいとはいえないが、それがどうした。サトエ、マリ、サヨの3人は、自分たちの前に広がる道なき道をどのようにサバイブしていくのか、今後もふとした瞬間に考えることになるだろう。
※女性セブン2021年4月8日号