大人が感動する絵本が人気になっているという。室井滋さんが文を、長谷川義史さんが絵を描いた絵本『会いたくて会いたくて』は、「大人が泣く絵本」として話題となった。そこで、『人生の1冊の絵本』など絵本の魅力を綴った著作も多いノンフィクション作家の柳田邦夫さんが、「大人が読んでほしい」とおすすめする3冊を紹介する。
『けんちゃんのもみの木』
美谷島邦子・文/いせひでこ・絵 (ビーエル出版)
1985年の日航ジャンボ機墜落事故で、9歳の息子を亡くした著者が、これまでの35年間を振り返りながら、子供たちが安心して安全な社会で生きていけるようにと祈るような気持ちで表現した絵本。
「作中で、蝶が著者に《悲しくなったら泣いてもいい》と語りかける場面、そして、息子が自分の中にいて一緒に生きていることをようやく実感する場面が心に沁みます」
『ひばりに』
内田麟太郎・詩/うえだまこと・絵 (アリス館)
東日本大震災で大切な家族や友人を亡くした子供たちに、どんな言葉をかけたらよいか。詩人である著者は、《小さな風がとどきますように》との思いから、たんぽぽの綿毛になって風に乗り、空を舞うひばりに話してみることを、詩で表現。
「悲しみや喪失感を抱える人たちがこの絵本を読むと、温かいそよ風に頬をなでられるような、そんな思いを抱くことができるかも」
『とんでいった ふうせんは』
ジェシー・オリベロス・文/ダナ・ウルエコッテ・絵/落合恵子・訳 (絵本塾出版)
きょうだいが数の違う風船を持つところから始まる物語。風船は、その人の経験や記憶を表している。
「おじいちゃんは両手いっぱいに持っていた風船を、次々と手放し失っていきますが、実はその風船は、孫の手に受け継がれている。最後、おじいちゃんの手には風船が消え、その傍らで子供は手に一杯の風船を持っている。人間の生老病死といのちのリレーを見事に表現した、味わい深い一冊です」
※女性セブン2021年4月8日号